課題を愛すること。
事業・商品・サービスそのものを愛すること。
そして、顧客を愛すること。
この3つの愛があれば、どのようなアイデアでもブラッシュアップを重ねて良いものにしていくことができます。
愛や情熱、魂があり、しっかりと時間をかけて検討されているものは、自然と価値の高いアイデアへと昇華されていきます。
ただ、こうした抽象的な精神ばかりを語っていても再現性はありませんので、戦略的な思考に基づくアイデア発想のポイントを整理したのが、次のスライドです。
< コンセプト:戦略的なアイデア発想の検討フレーム>
課題を解決し、望む未来を作っていくのは戦略的な思考に基いて生まれたコンセプトです。
その事業・商品・サービスが、他ならぬその形をもってこの世に生まれている理由、すなわち存在理由を体現するのがコンセプトになります。
そうした力強いコンセプトは、「課題設定」と「戦略的アイデア発想」の大きく2つのフェーズに分けて思考することで、生み出していくことができます。
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①「課題設定」のフェーズ
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「そもそも取り組むべき課題は何か」を設定するフェーズです。
今回はこの課題設定については深く記載しませんが、「①課題を矮小化しない」「②課題の整理・分析と再構築」という2つの作業を行います。
それぞれについては参考記事を以下にあげておりますので、ご参照ください。
▼①課題を矮小化しない
アイデアがつまらなくなってしまう本質的な理由 - "What are you holding, and why?"
▼②課題の整理・分析と再構築
課題設定のポイント①:分析と再構築 - "What are you holding, and why?"
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②「戦略的アイデア発想」のフェーズ
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アイデアも、ただなんとなく考えて思いつけば良いと言うものではありません。
以下のポイントを押さえて思考と発想を進めていきます。
(1)Potential
いまからアイデアを必要としている事業・商品・サービスの持つ可能性やポテンシャルを、一人の最高の支援者として最大限によく評価して、洗い出すフェーズです。
例えば、自分が売ろうとしている手作りパンであれば
✓ 無添加にこだわったうえに味も最高。食べる人を幸せにする力がある。
✓ この味を再現するために、家から行けるパン屋はすべて行って研究を重ねてきた。試行錯誤の回数なら誰にも負けないのではと思っている。
✓ パン作りの全くの素人だった自分が、ここまで寝る間も惜しんで必死になってつくってきた。「情熱さえあれば何でもできる」と人を応援してあげられるパンだ。
など。
そのパン自体が持っている効用に加え、背景にあるストーリーや情熱も踏まえ、「そのパンを提供することによって誰にどのようなメッセージを伝えることが出来るのか」と考えることで思考をふくらませ、そのパンのポテンシャルを最高に評価します。
この作業は、そのパン自体への愛がないとできません。
最大の支援者・応援者になって、多様な角度から、そのものの価値を考えて引き出していきます。
(2)Trend & Insight
自分が提供しようとしているものを取り巻く時流の変化(=Trend)と、ターゲットとする人の思考・心理・行動の状況(=Insight)を検討します。
世の中の変化に応じて、その事業・商品・サービスをとりまく環境は日々変化しています。
「電卓」を売ろうと思ったら、30年前と今とでは全く社会的な状況が違います。
過去の成功方法に固執していると、間違いなくうまくいかない領域の1つです。
そうした時流の変化を読み解きつつ、今回自分がターゲットにしようと考えている人の思考・心理・行動がどのようになっているのかを分析します。
それは消費データで定量的に導かれる面もあれば、実際にインタビューをすることで見えてくることもありますし、「もし自分がターゲットの人間だったらどのように感じるか」を想像してみることでつかめるものもあります。
あの手この手でTrendとInsightについて、思考を広げていきます。
(3)Rival
商品やサービスを売ろうと思ったら、「ターゲットは何と何を比べて検討しているのか」を探ること、つまり、競合との競争関係を探ることが必要です。
「ミネラル・ウォーター」のライバルは何でしょうか。
それはコンビニのお茶やコーヒーでしょうか。
勿論そういった面があることは否定できないでしょうから、「お茶やコーヒーよりもミネラル・ウォーターを飲もう」というメッセージを発信することには意義があります。
しかし、競合関係はきっとそれだけではありません。
もし「若い人は水分を摂ることが減ってきている」ということが生じているのであれば、若い人が水を飲まなくなってきたことには理由が有るはずです。
言い換えれば、「水を飲む」というそれまで行われていた行動に代わって行われている別の行動があるのではないか、と考えることができます。
例えば、「夏は熱いから水を飲む」という行動がかつてあった場合、最大のライバルは「エアコン」です。
エアコンがある環境が一般化し、以前に比べて夏場に汗をかくことが少なくなったとすれば、必然的に水を飲む量が減ってしまいます。
そうした現象に太刀打ちするためにはどうしたら良いでしょうか。
…このように考えを進めると、「検討のフェーズが『課題設定』まで戻ってしまっているのでは」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
実際、その通りです。
「①課題を矮小化しない」の参考記事にも記載がありますが、小さな課題に取り組んでしまうと、小さなアイデアしか生まれません。
大きな課題を設定することで、より本質的で魅力的なアイデアが生まれます。
ですので、戦略的なアイデア発想の作業では、「いま自分は『課題設定』と『アイデア発想』のどちらのフェーズにいるのだろう」と考えることには、あまり意味はありません。
課題設定とアイデア発想は常に表裏一体です。
最終的に自分が取り組む課題が明確になり、そこに自信を持って提供できるアイデアがあればよいので、常に多様な視点から思考・検討を進めることが重要です。
(4)New Competition Axis
ここまで課題とアイデアを検討して、何かアイデアのタネのようなものが見えてきたら、それらをまとめて「これは、新しい価値観を提供するだろうか」と考えてみます。
それまでの従来の価値観に対して新しい競争軸を持ちこみ、新しい価値観でも行動を提案できているでしょうか。
従来選ばれていたものから、自分たちの商品・サービスが選ばれるようになるために、新しい生き方を提案できているか。
もしできているとしたら、それは、どのような新しい競争軸を設定することでできているのでしょうか。
有名な例では、「モノより思い出 NEW SERENA」というキャッチコピーがあります。
これは、「クルマを選ぶときは、1つのモノとして買うのではない。そのクルマは、幸せな『思い出』を作ってくれるものかどうかという点で、ファミリーカーを選んで見てはどうでしょうか。SERENAは、家族の思い出つくりを応援します。」よいうメッセージが込められています。
得てして男性がスペックで選びがちなクルマにおいて、「思い出づくりにふさわしいかどうか」という新しい競争軸を持ち込みました。
こうした、ターゲットの考え方を変える提案ができているかどうかを、「競争軸」という観点から検証します。
(5)Message
最後は、見つけることができた新しいコンセプトを言語化する作業です。
コンセプトは、言葉に落とし込まれてはじめて力を発揮します。
「どのような言葉で綴るとこのアイデアの価値を最大限理解してもらえるのか」を検討します。
言語化の際には、外に出す言葉とインナー向けの言葉とは分けて考えます。
インナー向けの言葉は、特に飾る必要はありません。
チームのメンバーが考え方を共有し、それぞれの言葉で簡単に人に説明できる様になれば十分です。
一方、外に出す言葉は、キャッチコピーや商品名・タイトルなど、様々な形で多くの人の目に触れるので、特にターゲットとして設定した人が見て魅力的に感じるかどうかを検討します。
こうしたコピーライティングの作業には様々なテクニックがありますので、そちらはまた別の機会にお伝えします。