本質思考で考える「本質的な理由」がまだしっかりと理解できない
そこでこの記事では
・「本質的な理由」とは何か?
・どうやったらうまく見つけることができるのか?
について、科学的な研究成果も踏まえて解説します。
「本質的な理由」とはなにか?-本質思考の科学的解説
本質思考の学術的根拠
「【第1講】本質とは何かを理解する」で「本質」という言葉を
本質
人生を良くする教訓となる普遍的法則
と説明しました。
本質思考のロジック構成は本質思考のロジック
原因①:具体的な行動
かつ
原因②:本質的理由(=人生を良くする教訓となる普遍的法則)
↓
結果:高いパフォーマンス
という内容でした。何も考えずに原因①だけで行動するのではなく、その行動の本質的理由(原因②)を理解した上で行動することによって初めて高いパフォーマンスが再現されるということ。
この「本質」の説明およびロジックには科学的根拠があり、それがドイツの著名な科学哲学者カール・ヘンペルの「科学的説明」という議論です。
科学哲学者カール・ヘンペル
ざっくりと人物を紹介すると
科学哲学者カール・ヘンペル
- 1905年ドイツ生まれ。1934年ベルリン大学で博士号(確率論)を取得。その後ベルギー・アメリカと大学を移り、プリンストン大学名誉教授にも。1995年没
- 数学、物理学、哲学といった領域を横断的に修め、論理経験主義哲学者として科学哲学に大きく貢献した
- 中でも「科学的説明(Scientific Explanations)」のモデルとして演繹的法則的モデル(deductive-nomological model)を提示した功績が大きい
人類の知的レベルの飛躍的向上に貢献した歴史的偉人なおじさまです。
「科学的説明」とは
彼の偉業の中で今回取り上げたいのが科学的説明という議論です。科学は現実の現象に対して
~だから…になるんだよ!
・「説明」とは何なのか?
・何をもって「説明できた」というのか?
をどの様に定義するかが課題でした。例えば
問い
なぜ雷は光が見えてから音が聞こえるまでにタイムラグがあるの?
説明
・光の速度は30万km/秒だが、音の速度は340m/秒である
・光と音の速度の差により、雷の光と音が知覚されるまでにかかる時間にギャップが生まれ、それが光ってから音が聞こえるまでのタイムラグとなる
こうした科学的な説明がメタ的にやっていることが何で、どういう条件が揃えば説明が成立していると言えるのか、科学の行っている「説明」というものの真実を解き明かすのが「科学的説明」というテーマです。
演繹的法則的モデル(DNモデル)
上記の問いにヘンペルが出した答えが演繹的法則的モデル(DNモデル)でした。どういうものかというと
演繹的法則的モデル(DNモデル)
- 説明される事象を記述する文を「被説明項」、被説明項を論理的に導くために用いられる文を「説明項」と定義する
- 科学的説明とは以下の4条件を満たす推論である
- その推論は論理的に妥当な演繹である
- 説明項は少なくとも一つの一般法則を含んでおり、それは被説明項を導き出すのに必要なものでなければならない
- 説明項は経験的に確かめることが可能なものでなければならない
- 説明項を構成する文は真でなければならない
普遍妥当な一般法則を使って演繹するのが「科学的説明」である!
演繹的法則的モデルによる説明のロジック
説明項①:雷が発生した【初期条件】
かつ
説明項②:光の速度は30万km/秒だが、音の速度は340m/秒である【一般法則】
↓
被説明項:雷は光が見えてから音が聞こえるまでにタイムラグが生じる
「特定の初期条件×一般法則」の組み合わせによって結論を説明する
一般的な「説明」との違い
この演繹的法則的モデルは、一般的にいう「説明」とは一線を画す考え方で、通常「説明する」という場合には
一般的な「説明」
①相手が知らない事実や前提条件を伝える
問い「なぜ教室がこんなに静かなの?
説明「前の授業であまりに大声で騒いで先生に怒られたからだよ」
②時系列的な因果関係を伝える
問い「なぜガラスの破片が散らばっているの?」
説明「Aくんがボールを投げたら、Bくんが取り損なって、後ろに合った教室の窓ガラスにあたって割れてしまったんだ」
こうした「説明」は「科学がやる説明」ではない
なぜAがBという結果に繋がると言えるのか?
を「説明」したことにはならず、そのつながりの本質的な仕組みやからくりを明らかにすることこそ科学の「説明」だというのがヘンペルの主張でした。
「本質的な理由」を見つけるテクニック
「いつでもそう?」に耐えられる普遍的な理由を探せ
以上の理解を踏まえて、本質思考で探すべき本質的な理由とはどのようなものでしょうか。結論から言えば
「いつでもそう?」に耐えられる普遍的な理由
「【第2講】本質思考の実践方法を学ぶ」では、本質思考の実践方法として
本質思考の実践方法
- 理由を考え思考の抽象度を上げる
- 理由の普遍性を検証し、本質を理解する
- 本質を価値に変える行動をとる
を紹介しましたが、この2つ目の理由の普遍性(いわば「法則っぽさ」)がとても大切であり、難しいところです。
普遍的な理由を見つけるテクニック
普遍性とか法則とか、考えるのは難しい…
例
行動:お土産を持っていく
→結果:後の商談がうまくいく
Q.この因果関係の「理由」は?
理由案1:相手が此方の話を深く聞いてくれるようになるから
こうした理由説明は、ヘンペルの議論によれば
時系列的な因果関係を説明しても「科学的説明」にはならない!
例
行動:お土産を持っていく
→結果:相手が此方の話を深く聞いてくれる【理由案1】
→結果:後の商談がうまくいく
この理由では、因果関係の穴埋め説明にしかなっていないわけです。こういうときに筋の良い普遍的理由を見つけるには
普遍的な理由を見つけるテクニック
- 普通に理由を考えて、中間的におきることを出す
- 出てきた中間的に起きることに対して、更に理由を考える
→理由は2度考える
先程の例に当てはめると
例
行動:お土産を持っていく
→結果:後の商談がうまくいく
Q.この因果関係の「理由」は?
理由案1:相手が此方の話を深く聞いてくれるようになるから
Q.「相手が此方の話を深く聞いてくれるようになる」その「理由」は??
本質的理由:人はものを貰うと借りを感じて、無意識に返したくなる【返報性の原理】から
返報性の原理は、人間の心理的な作用としてかなり普遍性の高いものと言えますので、本質思考でいう「本質的な理由」に当てはまっています。
一回だけでは導き出すのが難しかったものも、2回理由を深堀りして考えると本質が見えてきます。もちろん、それでも中間的に起きることが出てきた場合は、もう一度理由を踏み込んで考えましょう。
結論:理由は2度考える
理由を考えるときは、「時系列の因果関係」に妥協せず、更にもう一度踏み込んで理由を考えることで、活用可能な本質的理由を見つけることができます。
理由は2度考える
おわりに
人間には、あるいはこの世界には、普遍的に当てはまる法則的な因果関係が存在します。本質思考によってそれを見つけ出すことができれば、自分の努力をその法則に乗せることができるので、必ず結果が出ます。
反対に、そうした法則に反したところで努力をしても、なかなか望んだ結果には繋がりません。大きな波に逆らって泳ぐのと同じことです。
ぜひ本質思考を訓練しながら生産性を高めてまいりましょう。
<基礎講座>
◆本質思考の基礎講座│抽象的思考を使いこなし、本質を見つける人の発想法
◆【第1講】「本質」とは何かを理解する
◆【第2講】「本質」の活用方法を理解する
◆【第3講】「本質的な理由」という考え方を理解する
◆【第4講】「本質」を自分で見つける方法を理解する
<コラム>
◆ちきりん氏「思考時代」に求められるのは価値体系を創り上げる「思想」の力
◆前提条件とロジックを自分の頭で整理する力が思考力であり理解力│箕輪氏『死ぬカス』に学ぶ
◆「コスパのいい知識を身に着けよう」というお話│抽象度の高い知識と思考の使い方
◆思考の抽象度が高い人の10の特徴│本質思考のリアルを知る
◆思考の抽象度を上げ、本質を捉える4つのコツ│抽象化能力・本質思考力の鍛え方
◆メタ認知能力をトレーニングする4つの方法
◆矛盾や対立があるところに本質がある
◆「自分のアタマで考える」とは?│本質思考としての批判的思考
◆「バカと言ったほうがバカ」の真理│本質思考を支える知的態度
<まとめ>
◆思考法・問題解決【全体解説】
◆本質思考の基礎講座│抽象的思考を使いこなし、本質を見つける人の発想法まとめ
◆仮説思考の基礎講座│知的好奇心を武器に自分の頭で考える人の発想法まとめ
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