ウワノキカクのキカクメモ│問題解決のための論理・ロジカルシンキング

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【認知論理の原則】人間は「ゲシュタルト」で世界を認識している

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「論理的に考える」と言った時に、そもそもその「論理」がどういうルールであるかを定義できなければ、なぜあるものが論理的であり、あるものが非論理的なのかを説明することができません。


こうした課題意識から、このブログでは人間の認知を形作る原則の一つとして「ゲシュタルト」という概念をしばしば取り上げています。


今回は、改めてこの「ゲシュタルト」という概念の基本を解説し、論理的思考の実践に向けてきちんと使えるように理解を深められるようにしたいと思います。

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「ゲシュタルト」とは何か?

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「ゲシュタルト」の意味と具体例

「ゲシュタルト」という言葉の意味をまずは解説していきますが、この言葉の意味がわからなくても、「ゲシュタルト崩壊」という言葉を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。


同じ漢字を繰り返し書き連ねたり、注視したりすることで、パーツとパーツのつながりがわからなくなり、全体として見た時に「あれ、こんな漢字だったっけ?」「なんて読むんだっけ?」と違和感を覚えることがあります。
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※この漢字を10秒程度注視しているとゲシュタルト崩壊が感じられはず。詳しくはこちら


一つの漢字を注視することによって、普段はあまり意識することのないパーツの方(この場合「貝」や「宇」)に意識が集中し、パーツの組み合わせである全体への意識が弱くなることによって、対象の全体感が崩れて違和感を覚え、認識が混乱しはじめます。


この現象を「ゲシュタルト崩壊」と言います。


この「全体感」という感覚がゲシュタルトという言葉の大事なポイントです。


「ゲシュタルト」という言葉は、心理学の一派であるゲシュタルト心理学の研究から生み出された概念で、「複数の部分がつながることで形成される、ひとまとまりの全体構成」のことを指します。

・他の漢字の例でいえば、たとえば「桜」という漢字は、「木」「ツ」「女」というパーツが特定の形でつながることで形成される構造体です。
 
・光あふれる美しい夜景は、それ自体が1枚の絵のように感じられますが、実際は無数の照明の明かりが集まることで形成される点描画のようなもの。
 
・私たちが仕事で使うデスクは、1枚の天板と4本の脚が部分となることによって構成されています。

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このように、ゲシュタルトは視覚的・物理的な構造物をイメージするとわかりやすいですが、私たちは他の五感でもゲシュタルトを感じています。

・たとえば、私たちが普段聞いている音楽には「千本桜」「夜に駆ける」「街の風景」といったタイトルがついていますが、その構成要素は楽器ごとに奏でられる音の連なりです。
 
ふかふかの絨毯に触れれば「気持ちのいい絨毯だ」と思いますが、実際に触れているのは無数の繊維です。

このように、どの五感を通じて得られた知覚かに関係なく、私たちは一定のまとまりを1つの単位として世界を認識しており、これをゲシュタルトと言います。


認識の基礎がゲシュタルトであるということは、当然、私たちが思考するときの基礎的な処理もゲシュタルト単位で行われているということです。

 

なぜ人はゲシュタルトで認識するのか?

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人間の認識にゲシュタルトが必要な理由の考察

ゲシュタルトという概念を理解すると論理的な思考能力を飛躍的に高めることができますが、そもそもなぜ人間はゲシュタルト単位で物事を認識しているのでしょうか?


ここでは、その理由の個人的な考察を3つほど述べたいと思います。

人間の認識にゲシュタルトが必要な3つの理由
①「部分」の知覚には限界がある
②より少ないエネルギーで脳を動かせる
③目的に応じて自由な発想ができる

以下、一つずつ取り上げて解説します。
 

①「部分」の知覚には限界がある

1つ目の理由は、「部分」の知覚には限界があるという理由です。


ゲシュタルトには多重の階層性があり、ある視点で「部分」だったものを「全体」として捉え直すことを繰り返すと、最終的には量子の世界に辿り着きます。


例えば、ふかふかの絨毯がウール製であれば、ウールはケラチンからできており、ケラチンはタンパク質なのでアミノ酸からできており…と組成をどんどん詳細に分析することが可能です。
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最終的には、分子→原子→電子・中性子・陽子→…と組成の分析が進み、量子の世界になっていきます。


量子はナノメートル(1メートルの10億分の1)オーダーの世界なので、当然一つひとつを認識することは不可能です。


そこまで遡らなくても、絨毯の繊維一本一本ですら視覚的・触覚的に認識し分けることは非常に困難ですね。


人間の知覚能力には限界があるため、どこまで部分に分解しても、そもそもある程度のまとまり単位でしか認識することができません


これが、ゲシュタルトが人間にとって必要な理由の1つ目です。
 

②より少ないエネルギーで脳を動かせる

2つ目の理由は、ゲシュタルト単位で認識することでより少ないエネルギーで脳を動かせるようになることが考えられます。


デスクをデスクとして認識すれば1つのものですが、「1枚の天板・4本の脚」と認識すると5つの別々のものを考慮しなければなりませんし、絨毯なんてどうしたら良いのでしょうか。


細かく部分を認識し、一つひとつの違いに気づいていたら、当然脳はより多くのエネルギーを消費します


生物としてより少ないエネルギーで生存できることは必須の機能ですので、認知的な負荷を下げるためにもざっくりと大きなゲシュタルトで物事を認識するのが理に適っていると言えるのではないでしょうか。

③目的に応じて自由な発想ができる

3つ目の理由は人間の思考能力に直接関わるところですが、ゲシュタルト単位での認識によってその時々の目的に応じて自由な発想ができるようになると考えられます。


これはゲシュタルトというものが人間の主観的な働きによって非常に柔軟に再構成されうることが前提にあります。


たとえば、洗濯物の量が多くなってしまった日、ハンガーにかかったシャツを物干し以外のどこかにかける必要があるという時には、人間は「シャツを干している状態」というゲシュタルトを作ろうとします。


ざっと部屋中を見回して、ある程度高い位置にあってハンガーが引っかかりそうな「部分」、下がり天井のへりなどを見つけたら、そこをハンガーをかけることが出来る場所と認識し、実際にハンガーをかけることで1つのゲシュタルトとして認識します。


これは、「その時々の目的に応じて新しいゲシュタルトを生み出すことができる」ということでもあります。


授業中に眠くなれば机が寝床や枕になり、夜になってリビングに布団を敷けば寝室になり、災害時には飲料用のミネラルウォーターで身体を洗ったり、その場の要請に応じて自由に用途を変えて柔軟にあるものを活用できるのも、人間のゲシュタルトという認知能力のなせる技です。


人間はその時々の状況に応じて創造的に考え、新しい方法を生み出し続ける必要がありますが、それこそがこの「ゲシュタルトを生み出す」という働きによるものだと考えられますし、当然、この能力が生物としての進化を後押ししてきたと考えることはできるはずです。
 

「ゲシュタルトを作る」をさらに理解する

「ゲシュタルトをつくる」という意識的な働きを、日々の実践のために説明し直しているものが、3つの論理の型の1つである「構造化」です。


部分と全体の関係によって情報の構造を構築することにより、情報を詳しく分析したり、複数の情報を総合してより高い視点で効率的に発想したりすることが可能になります。


以下の記事が「構造化」の解説ですので、興味がある方はぜひご覧ください。

おわりに

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以上、認知論理の原則の1つとして「ゲシュタルト」という概念を解説しました。


まだまだ入り口の入り口ということで、ざっくりとしたイメージを提示したのみになりますが、世界の見え方が少しでも変わっていれば幸いです。

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