ウワノキカクのキカクメモ│論理的思考・問題解決のトレーニング

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橘玲著『上級国民/下級国民』まえがきのロジックを論理的に徹底分析

「この記事は論理的思考の方法論を使って文章の読解力を向上させよう!」という内容です。橘玲氏の『上級国民/下級国民』を題材に扱っています。前回の「文章のロジックを明らかにする方法│論理的思考で読解力向上」では、比較的明瞭に書かれた論理的な文章の論理展開を明らかにしました。
 
 
今回は、すらすらと読んでいくと部分部分の内容はわかるし、読後も文章内容はしっかりと頭の中に残っているものの、「全体の論理展開は?」と問われると答え方が少し難しい、前回よりは一段難易度の高い文章を扱います。
 

 
※ ロジックの分析にはブランチという手法を使っています。まだの方は先にそちらを読まれた方が、以下の内容が理解しやすいかもしれません。
 
関連記事:因果関係の思考を鍛えるには?│「原因と結果の論理」の実践方法 - ウワノキカクのキカクメモ│論理的思考・問題解決のトレーニング
 
 

橘玲著『上級国民/下級国民』まえがきの論理展開

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題材紹介

今回の題材はこちらです。
 
www.tachibana-akira.com
 
橘玲氏の新刊『上級国民/下級国民』のまえがきが同氏のブログで公開されておりましたので、そちらを引用していきます。引用文はそのままで、一切改編を加えておりません。
 

上級国民/下級国民 (小学館新書)

上級国民/下級国民 (小学館新書)

 
なお、ロジックの分析内容については可能な限り筆者の意図に沿うように配慮していますが、一部、分析している私の理解が含まれており、必ずしも筆者の主張とは合致しない恐れが十分にあります。あくまでも一つの読解例としてご参照いただくようお願い致します
  
 

論理展開の分析

「まえがき」の冒頭は2019年4月の池袋の事件から始まります。
 

【引用】
2019年4月、東京・池袋の横断歩道で87歳の男性が運転する車が暴走、31歳の母親と3歳の娘がはねられて死亡しました。この事件をめぐってネットに飛び交ったのが「上級国民/下級国民」という奇妙な言葉です。
事故を起こしたのは元高級官僚で、退官後も業界団体会長や大手機械メーカーの取締役などを歴任し、2015年には瑞宝重光章を叙勲していました。たまたまその2日後に神戸市営バスにはねられて2人が死亡する事故が起き、運転手が現行犯逮捕されたことから、「池袋の事故を起こした男性が逮捕されないのも、マスコミが“さん”づけで報道しているのも「上級国民」だからにちがいない」「神戸のバス運転手が逮捕されたのは「下級国民」だからだ」との憶測が急速に広まったのです。
すでに報じられているように、男性が逮捕されなかったのは高齢のうえに事故で骨折して入院していたからで、メディアが“さん”づけにしたのは“容疑者”の表記が逮捕や指名手配された場合にしか使えないためですが、こうした「理屈」はまったく聞き入れられませんでした。

 
今回の記事では、文章上明示されていない言葉についても、論理展開を明確にする上で必要な要素はグレーで補っています
 
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「上級国民/下級国民」という奇妙な言葉が飛び交うようになった経緯が冒頭で明示されています。起こったことは似ている2つの事件なのに、処遇が違う。この差別のように見えた対応からこの言葉がネット上で盛んに使われるようになったとのこと。
 

【引用】
2019年5月には川崎市で51歳の無職の男が登校途中の小学生を襲う事件が起き、その4日後に元農水事務次官の父親が自宅で44歳の長男を刺殺しました。長男はふだんから両親に暴力をふるっており、事件当日は自宅に隣接する区立小学校の運動会の音に腹を立てて「ぶっ殺すぞ」などといったことから、「怒りの矛先が子どもに向いてはいけない」と殺害を決行したと父親は供述しています。
この事件を受けて、こんどはネットに困惑が広がりました。彼らの世界観では、官僚の頂点である事務次官にまでなった父親は「上級国民」で、自宅にひきこもる無職の長男は「下級国民」だからです。

 
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息子の日頃の暴力的な態度に、川崎市の悲惨な事件。そこに時期を同じくして、息子が子どもに対して矛先を向ける兆しがあった。これらが組み合わさってこの事件が起こりました。そうして「上級国民は優遇されている」」というネット上の理解は大きく揺さぶられることになりました。
 

【引用】
「上級国民」という表現は、2015年に起きた東京オリンピックエンブレム騒動に端を発しているとされます。
このときは著名なグラフィックデザイナーの作品が海外の劇場のロゴに酷似しているとの指摘が出て、その後、過去の作品にも盗用疑惑が噴出し大きな社会問題になりました。その際、日本のグラフィックデザイン界の大御所で、問題のエンブレムを選出した審査委員長が、「専門家のあいだではじゅうぶんわかり合えるんだけれども、一般国民にはわかりにくい、残念ながらわかりにくいですね」などと発言したと伝えられました。
これが「素人は専門家に口答えするな」という「上から目線」として批判され、「一般国民」に対して「上級国民」という表現が急速に広まったとされます(「ニコニコ大百科」「上級国民」の項より)。
このように当初は「専門家/非専門家」を表わすネットスラングだったものがいつの間にか拡張され、池袋の事故をきっかけに、「日本社会は上級国民によって支配されている」「自分たち下級国民は一方的に搾取されている」との怨嗟(ルサンチマン)の声が爆発したのです。

 
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2015年の東京オリンピックエンブレム騒動が、今の「上級国民/下級国民」という言葉が生まれるきっかけであったことが指摘されています。
 

【引用】
コラムニストのオバタカズユキさんは、令和改元にともなう10連休に対して、ツイッター上に次のような発言があふれたことを報告しています(「「上級国民」というネットスラングの大拡散が示す日本人の心中」NEWSポストセブン)。
〈(羽田空港行きの)モノレールが連休を旅行で過ごす上級国民様で満たされておる〉
〈10連休を取れるのは全体の3割。そんな能天気に生きて居られるのは、上級国民だけってか〉
〈10連休なんて上級国民様の催しでしかないのです、下級国民は労働奉仕なのです(震え)〉
〈給料総額15万、週6日働いて稼働日数月25日。盆正月関係なし。ほとんど奴隷と同じです。きっと公務員や、NHKに勤めてる上級国民の皆さんには理解できないんだろうな〉
〈次、生まれ変わるなら人間じゃなくて蝉が良いな上級国民に×されずに済むし〉
ここでオバタさんが指摘するのは、「上級国民」は「エリート」や「セレブ」「上層(上流)階級」とはニュアンスが異なるということです。
現代社会では、「エリート」や「セレブ」は「努力して実現する目標」です。「上層階級(アッパークラス)/下層階級(アンダークラス)」は貴族と平民のような前近代の身分制を表わしていましたが、その後、階級(クラス)とは移動できる(下流から「なり上がる」)ものへと変わりました。それに対して「上級国民/下級国民」は、個人の努力がなんの役にも立たない冷酷な自然法則のようなものとしてとらえられているというのです。 いったん「下級国民」に落ちてしまえば、「下級国民」として老い、死んでいくしかない。幸福な人生を手に入れられるのは「上級国民」だけだ──。
これが、現代日本社会を生きる多くのひとたちの本音だというのです。

 
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「上級国民/下級国民」は固着的なもので、個人の努力によってどうにもならない生来的なもの。個人の幸福が努力からかけ離れたところにあるという認識が多くの人にとって「本音」であるという指摘。
 
 
ここまでが、以降の各章の内容を紹介する前までの「まえがき」の論理構造の分析です。「上級国民/下級国民」という言葉がどの様に生まれ、社会の中でどの様に使われてきたのか、印象的な事件を中心に説明されています。
 
 

論理展開全体の考察

では、まえがきの文章全体ではどのような論理展開になっていると考えるべきでしょうか。ここまでのロジックの分析を1つにまとめると、以下の様に整理できます。
 
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※拡大して御覧ください
  
「「上級国民/下級国民」は、個人の努力がなんの役にも立たない冷酷な自然法則のようなものとしてとらえられている」というショッキングな結論はがどこから生まれてきているのかは、このまえがきでは明確に語られておりませんが、このロジック全体を眺めていると2019年4月の池袋の事件における以下の指摘がどうにも重要なものに思えてきます。
 

【引用】
すでに報じられているように、男性が逮捕されなかったのは高齢のうえに事故で骨折して入院していたからで、メディアが“さん”づけにしたのは“容疑者”の表記が逮捕や指名手配された場合にしか使えないためですが、こうした「理屈」はまったく聞き入れられませんでした

 
正当な理由があるにも関わらず、一面的な理解、感情的な発言が真実以上に力を持ってしまう。このインターネットならではの特性が「上級国民/下級国民」という人々の分断を引き起こしているように読み取れます。起こった事件は変えられない過去だとしても、この1点さえなければ、このような言葉が社会の認識を変えることはなかったかもしれません。
 
 
「正当な真実<<<一面的理解・感情的な発言」という構造、より正しく理解しようとするよりも、扇情的な情報を鵜呑みにし増幅してしまう現代社会の情報構造が、いったい何を引き起こしているのか。「上級国民/下級国民」という言葉はあくまで一つの現象であり、社会のあちこちでこの分断が加速していることが、このロジックから読み取れます。
 
 
本書の内容が気になる方はぜひご購入ください。
  

上級国民/下級国民 (小学館新書)

上級国民/下級国民 (小学館新書)

 
 

おわりに

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文章の論理展開を因果関係の思考をつかって分析していくと、そのまま読み流しているだけでは見落としてしまいがちな重要なポイントに気づくことができます。文章の読解力を高めるためにも、ぜひブランチを学んでみてください。
 
 
「ブランチ」を学べる記事一覧
▼「ブランチ」とは?を学ぶ
因果関係の思考を鍛えるには?│「原因と結果の論理」の実践方法 - ウワノキカクのキカクメモ│論理的思考・問題解決のトレーニング

▼「ブランチ」の作成方法を学ぶ
因果関係の論理的思考実践│「ブランチ」作成入門 - ウワノキカクのキカクメモ│論理的思考・問題解決のトレーニング
 
▼「ブランチ」を文章読解に使う
文章のロジックを明らかにする方法│論理的思考で読解力向上 - ウワノキカクのキカクメモ│論理的思考・問題解決のトレーニング
 
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