ウワノキカクのキカクメモ│問題解決のための論理・ロジカルシンキング

問題解決のためのロジカルシンキングを学ぶためのブログです。

誰でもすぐに”論理的”なプレゼンができるフレームワーク「仮説の論理構造」

「もっと論理的に説明してください」


一世一代のプレゼンテーションの機会。できる限りの準備をして発表したのに、相手からはそんな反応が返ってきて「うっ…」と苦しい思いをした人は少なくないはず。


そこでもう一度自分一人で考えて「今度はしっかりと論理的に筋道が立てられているはず!」と思い、もう一度プレゼンしたところ


「なぜこの内容でこの結論になるのですか?論理の飛躍があります」


と言われ、再度撃沈。


「どうしたらいいんだ…!?」と悩みながら、どんどん自分のプレゼンに自信をなくしていく。


今回は、「論理的思考」にまつわるそんなつらい思いを経験したことがあるすべての人を対象に、誰でもすぐに”論理的”なプレゼンができるフレームワーク「仮説の論理構造」をご紹介します。

誰もが目指すべき「”論理的”なプレゼン」とは?

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フレームワークを紹介する前に、前提として「”論理的”なプレゼン」という言葉を定義しておきましょう。


まず、「そもそも『プレゼン』って何でしょうね?」というお話から。

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ここでは話をわかりやすくするために、プレゼンの目的は「聞き手の認識を変え、行動を促す。」と設定しておきます。つまり、聞き手が「面白い話を聞いた!」「その考え方を取り入れてみよう!」と認識や行動が変わったならば成功。「よくわらかなかったなあ」「自分は別にいいかなあ」と認識・行動が変わらなかったら失敗、と考える。


うまくいったかどうかは、聞き手の反応ありきというわけです。


次に、「では、『”論理的”なプレゼン』とはどんなもの?」ということですが

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「”論理的”なプレゼン = 聞き手が結論に納得できるプレゼン」と定義するのはいかがでしょうか。プレゼンの目的は聞き手の反応で決める。であるならば、”論理的”であるかどうかも聞き手の反応で決めるべき。


ここで言っている「結論」とは

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プレゼンの目的に照らして、「『●●』な行動をすべきです!」という内容であるはず。もちろん、明示的に行動を示さない場合もありますが、少なくともプレゼンをする人の頭の中には、聞き手にとってほしい行動のイメージはあるはずです。


また、「納得」とはどういうことでしょうか。

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納得しているというのは、「その結論に至る理由はよくわかった!」ということ。つまり、結論に至る理由(道筋)に納得しているということですね。


まとめると次のようになります。

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これがいつでも短い時間で簡単に実現できるようになるとしたら、いかがでしょうか?


どうやってそれを実現するのか、具体的なフレームワークを見てみましょう。



「仮説の論理構造」とは?

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今回ご紹介するのは「仮説の論理構造」というフレームワークです。


これは、TOC(制約理論)に基づくコンサルティングサービスを提供するGoldratt JapanのCEOである岸良裕司氏の論文によって世に示されました(「全体最適のマネジメント理論TOC 基礎」という論文です)。


この構造が生み出された背景や活用事例の詳細は、岸良氏自身による論文の内容に譲りますが(論文と言っても大変読みやすい文章ですのでぜひご一読くださいね!)、今回の主眼である「仮説の論理構造」は以下の内容です。

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「前提」「行動」「理由」の3つのセットによってどんな「結果」が起きると考えているのかを記述するというフレームワークです。言い換えれば、「論理的に仮説をつくるには、4つの構成要素をこうやって構造化する必要があるよ!」ということです(あらゆる主張は暫定的な”仮の説(仮の考え)”として批判の対象になるわけですな)。


それぞれの構成要素を説明すると…

「仮説の論理構造」の構成要素
結果…ある行動によってこれから起こそうと目指している内容(目的
 
前提…ある行動や変化が必要であることを示す、議論の前提となる情報(その行動が必要な理由
 
行動…目指す結果を起こすためにどのような行動・変化を起こすのか
 
理由…その前提において、その行動が目指す結果を起こせると言える理由(その行動がうまくいく理由


「前提」「行動」「理由」の3つをまとめて原因側(下部)に記述し、「結果」を結果側(上部)に記載することで、因果関係を構造化しています。


「仮説の論理構造」のフレームワークに則って情報を整理することで、”論理的”にメッセージをつくることができます。逆に言えば、”論理的でない”というときには、

・4つの要素のいずれかが不十分である(情報にヌケモレがある)
・4つを組み合わせたときに同意できないつながりになっている(”論理の飛躍”がある)

のいずれかだということです。


これだけではまだまだこのフレームワークの威力が伝わらないかと思いますので、以下の章で具体的な活用方法を紹介します。



具体的な活用方法

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話をわかりやすくするために、以下の場面で実際に使ってみるということをケースとして考えてみましょう。

場面設定
✓ あるメーカーのマーケティングチームのお話
✓ チームリーダーが新年度の改善提案を事業部長にプレゼンする


このチームリーダーのプレゼンのメッセージは「新年度からマーケティングチームにフレックスタイム制を導入すべし」ということでした。

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当然、「なんで?」となりますよね。そこで、何のためにその変化を起こすのか、「結果(目的)」を明確に書くことにしました。

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リーダーが考えたフレックスタイム制導入の目的は、「会社の業績も社員の満足度も向上する!」ということでした。


ここで読み手のみなさんは、どう感じるでしょうか?「なるほど、よくわかった!これでいこう!」と思った方はまだまだいないはず。なぜなら、この状態では「言いたいことはわかるけれど、なんでこの行動でこの結果が生まれるのか、わからんなー」という”論理の飛躍”があるからです。つまり、まだ”論理的”なプレゼンにはなっておらず、行動と結果の距離が遠い感じがするのです。


そこで、「なぜこの行動が必要なのか?」を説明する「前提」を明記することにしました。

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ここでは2つの前提が記載されました。端的な表現では書ききれなかった事情は以下の通りとのこと。

前提(必要な理由)
● 不規則な立会い業務が多い
マーケティング活動の一環として、土日祝日のイベントや深夜・早朝の準備など、標準の時間外の立会業務が残業時間に占める割合が多い。
一方、立会業務中は自由時間も多く、案外手持ち無沙汰になることも。

● “学び”のための時間が取れない
良い企画をつくるためには、他社の最新の事例に触れたり、平日日中の時間にしか行けない施設やお店に行ってみたり、はたまた自分の趣味に没頭するなど、インプットを増やすための自由な時間が欠かせない。
現状では、平日日中は会社にこもりきりで「インプットが枯渇している」とみんなが嘆いている。


これらの事情(前提)があるときに、フレックスタイム制を導入(行動)すると、会社の業績も社員の満足度も向上する(結果(目的))。このように説明されるとどうでしょうか?


「行動」と「結果(目的)」だけを聞いたときより、はるかに「なるほど」という納得感が高まっているのではないでしょうか。


同じ行動・変化であっても、どういう前提において実行するかによって、起きる結果は異なります。「前提」を明らかに示すことによって、その結果が起きることの確からしさを判断することができるということですねー。


これだけでも十分な前進ですが、仮説の論理構造では「理由」を更に言葉にすることを求めます。いま表されている3つの要素だけではまだ不十分だとするならば、どんな「理由」があればより納得できるでしょうか?


そこでリーダーは、次の「理由」を書き加えました。

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理由(うまくいく理由)
□ 立会業務の手空き時間を使えば、まだまだ仕事は効率化できる
□ 自由な時間で“学び”が増えれば、他社を超える企画が生み出せる
□ 無理なく学べる組織の仕組みが、継続的な競争力になる

これで「仮説の論理構造」の内容はすべて埋まりました。


この「前提」があるときに、この「行動」をすると、この「結果」が生まれます。なぜならばこういう「理由」があるからです。


聞き手の立場で上記のように読んだときに、どう感じるでしょうか?はじめに「行動」だけ、あるいは「行動」と「目的」だけ示されたときと比べてみると、はるかに”論理的”になってきた感じがします。


ここまで作ってリーダーは、一度社内の先輩にロジックを見てもらうことにしました。すると、以下のようなコメントが。


「いい感じだし、言いたいことは納得したけれど、『会社の業績が上がる』まではやっぱりまだ少し距離があるような気がするなー」
「『会社の業績』だなんて、なんでそんなに大きく出たの?」


そこでリーダーはこう答えました。


「実は、前年度のときに『マーケチームが忙しすぎて思い通りに手が打てなかったことが、商品の売上の伸び悩みに響いた』って営業部から言われたんです。」


ということで、他人の目で見てまだ論理の飛躍と感じられる要素が明らかになったため、上記の内容を前提に追加することにしました。

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これで、プレゼンで伝えるべき内容の骨格が出来上がりました。あとは、具体的にどう話すかだけの問題になりましたが、この内容を伝えれば、少なくとも”論理的でない”と言われることはなさそうですね。



おわりに~なぜ「仮説の論理構造」がうまくいくのか~

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いかがでしょうか?


このエントリーの終わりに、「なぜ『仮説の論理構造』がうまくいくのか」の仮説を立ててみたいと思います。

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前提(必要な理由)
“論理的でない”プレゼンの3つの特徴
①何を言っているかわからない
話し手が一方的に情報を伝えてしまい、聞き手にとっては「そもそもいま何の話をしているの?」がわからない。
②情報にヌケモレがある
納得に足る必要な情報が網羅されておらず、「必ずしもそうは言えないな…」と思われてしまう。
③情報のつながりに飛躍がある
伝えたいことをすべて入れこんでも、「それだけじゃ結果には至らないんじゃないかな」と”論理の飛躍”がある。
 
結果(目的)
誰でもすぐに”論理的”なプレゼンができる
 
行動
「仮説の論理構造」を使ってプレゼンの骨子をつくる
 
理由(うまくいく理由)
●4つの項目を埋めればヌケモレはなし。中身を考えることに集中できる
●誰でも簡単につながりがわかるから、論理の飛躍にもすぐに気付ける
●いろんな人のチェックが貰えて、みんなの知恵をうまく使える


いかがでしょうか?


「仮説」は常に仮の説。正解はありません。この説明を聞いて「なるほど!」と思った人もいれば、「うーん…」と思った方もいるのではないでしょうか?


納得した方もそうでない方も、自分がそう感じた「理由」をぜひ言葉にしてみてくださいね。


「因果関係の思考」を学ぶには? 推薦図書一覧

この一連の記事では、「原因と結果の論理」を扱っています。


この考え方は、『ザ・ゴール』の著者でありTOC(制約理論)の生みの親であるE・ゴールドラット博士により「思考プロセス」という名称で体系化されました。


日本ではまだ体系的に学べる書籍は少なく、関連書籍が数冊が出ている程度ですので、おすすめなものを以下にてご紹介します。

「因果関係の思考って、そもそもなあに?」

『ザ・ゴール2』エリヤフ・ゴールドラット 著
『ザ・ゴール2 コミック版』エリヤフ・ゴールドラット 著 岸良裕司 監修

「具体的な使い方を基礎から学びたい!」

『考える力をつける3つの道具』岸良裕司 著
『世界で800万人が実践! 考える力の育て方――ものごとを論理的にとらえ、目標達成できる子になる』飛田基 著

「これはぜひともうちの子どもにも学ばせたい!」

『子どもの考える力をつける 3つの秘密道具 お悩み解決! ! にゃんと探偵団』岸良裕司 著

「因果関係の思考のプロ」として理論と実践方法を突き詰める

『頭のいい人の思考プロセス―すぐに使える、図と論理の問題解決スキル』リサ・J. シェインコフ 著
『ゴールドラット博士の論理思考プロセス―TOCで最強の会社を創り出せ!』H.ウイリアム デトマー 著