ここにたどり着いた方でPDCAサイクルという言葉を聞いたことが無い方はいないと思いますが、「PDCAサイクルで仕事がうまくいっている!」という人も非常に少ないのではないでしょうか。しっかりと計画を立てて実行し、振り返って改善するというだけのことですが、なぜかどうにもうまくいかない。
この記事では、そんなお悩みについて「そもそもPDCAサイクルとは何か?」「なぜPDCAサイクルはうまくいかないのか?」「どうすればうまく活用できるのか?」といったところを解説していきます。
PDCAの基礎をおさらい
PDCAサイクルとは
殆どの方は既に理解していることと思いますが、PDCAサイクルの基礎を振り返ります。
◎PDCAサイクルとは
Plan【計画】 目標を達成するための計画を立てる
Do【実行】 計画に沿って行動する
Check【評価】 計画の実行結果を評価する
Action【改善】 改善点を発見し、改善する
その大まかな意味は文字通りで、「計画を立て、計画に沿って行動し、その結果を評価して、改善点を見つけて実行する。改善された新たな前提に基づいて次の計画を立てる」ということです。
大切なのは、PDCAは継続的なサイクルであるということ。改善が繰り返し進むことによって組織がレベルアップし、より高い水準を達成できるようになっていきます。逆に言えば、1回きりの計画>実行>振り返りでは意味がないということです。改善を繰り返した結果、組織が成長して目標の達成に近づいていなければ、PDCAサイクルはうまく回っていないということです。
PDCAサイクルの元々の意味
ここで少し、PDCAサイクルが生まれた背景を紹介します。PDCAサイクルは、「デミング賞」でおなじみのエドワーズ・デミングが1950年頃の日本での来日講演を受け、その講演を聞いた日本科学技術連盟(日科技連)のメンバーによって生みだされたといわれています。つまり、元々は現在のようにビジネスのあらゆる場面で使う考えではなく、メーカーの生産部門の品質改善のための考え方だったわけです。
したがって、これはあくまで私の推測ですが、PDCAサイクルが生まれた当時の考えとしては、PDCAサイクルというのは以下のような考え方だったのではないかと思います。
◎PDCAサイクルの仮説(ロジック)
▼前提
PDCAサイクルは工場のような反復回数が多く、不確実性の低い業務を念頭に作られた
▼目的
業務改善による生産品質の向上
▼行動
PDCAサイクルを実行する
▼PDCAサイクルがうまくいく理由
反復性の高い業務は、原因を排除することで確実にエラーを減らすことができる
重要な時代背景として、このとき世界はモノ不足。より品質の高い製品をより多く作ることができれば、それが企業の競争優位になった時代です。日本が「ものづくり大国」として世界ニ位の経済大国になったのは、この流れを受けてのことです。
PDCAは時代遅れ?
現在私たちは、PDCAサイクルをあらゆる業務における振り返りの型として活用していますが、もとを辿れば生産現場の業務改善の考え方だったわけです。この生産におけるPDCAを「狭義のPDCAサイクル」と言うならば、その後の時代の変化によって「狭義のPDCAサイクルは時代に合わない(古い)のでは?」という議論はありえなくはないかと思います。
しかし、「計画を立てて実行し、結果評価によって改善する」という広義のPDCAサイクルの考え方は、今の時代にも十分活用できるのではないでしょうか。上記の仮説の「理由」にもある通りですが、「反復性の高い業務は、原因を排除することで確実にエラーを減らすことができる」というのは極めて本質的な指摘です。確かに工場のようにまったく同じ行動を延々と繰り返す仕事の価値は下がる一方ですが、むしろ誰もチャレンジしたことのないブルーオーシャンを開拓し、そこで他の追随を許さないスピードで安定的なオペレーションを確立させるのは極めて重要なことです。GAFAといわれる企業にいまの繁栄があるのは、まさにこの最先端すぎて誰も教えてくれない領域において、誰よりも早く効率的なオペレーションを構築できたことにあります。そして、それを支えているのはPDCAに代表される、仮説検証型のフレームワークの徹底です。
✓ PDCAとは「計画>実行>評価>改善」を繰り返すことで業務品質を継続的に向上させていくフレームワーク
✓ 元々は生産など、不確実性の低い、繰り返される業務の改善のために作られた
✓ 前例のないイノベーションにこそPDCAが重要である
役に立たない?!よくある批判と誤解
PDCAはその時代背景もあり、「前提が変わった今の時代では役に立たない!」といわれることが多くなってきました。ここではよくある批判を3つ取り上げます。
変化が早い時代に対応できない
「狭義のPDCAサイクル」は変化が乏しく不確実性の低い時代の考え方だったことを受け、「変化が激しい今の時代にはこのフレームワークでは対応できない!」という批判があります。変化が激しい環境では、いちいち計画を立てるのではなく、現場で速やかに判断して行動していく必要があり、そのときにはPDCAではなく「OODAループ」の方が有効だという主張です。
この主張には的確なポイントと微妙に論点がずれたポイントが混在しています。まず、的確な指摘とは「変化が激しい環境では計画を立てるな」というところです。ここで言っている「計画」とは「行動計画」のことを指しています。つまり、「変化が激しく先が読めないのに1から100まで行動プロセスを厳密に決めきってもうまくいかない」という指摘です。これはまさにその通りで、持つべきは「行動計画」としての計画ではなく「仮説」としての計画です。これについては改めて後半で解説します。
また、論点がずれた指摘は「現場で速やかに判断する必要が高まっている」というところです。日本の大企業の様に、いちいち本社に持ち帰って本社で意思決定するのでは遅すぎるのは言うまでもありません。しかし、それはPDCAサイクルに問題があるというより、日本企業の意思決定の仕組みに問題があるという課題のはず。PDCAサイクル自体に問題があるということではないのです。
意思決定が遅くなる
次によくある主張として「いちいち計画を立てていたら意思決定が遅くなり、ビジネスの変化に対応できない」という批判です。これも、上記同様に「計画」という言葉をどの様に捉えるかで意味が変わります。「狭義のPDCA」のように「行動計画」としての計画であれば、それ自体作るのが大変ですので、それを作っている暇があれば意思決定すべきだということは理解できます。
一方、「仮説」としての計画まで作るべきではないと捉えるのは間違いでしょう。ここには程度の問題が含まれており、50ページや100ページもある大きく緻密な仮説を作っていれば時間もお金もどんどんなくなっていきますので、それはやめるべきでしょう。しかし、「~というアクションをとれば・・・という結果が起きるはずだ。なぜならば…」という論理的な考察を伴う仮説までなくしてしまうのは間違いです。むしろ、速やかな意思決定のためには論理的な仮説が絶対に必要です。論理がしっかりとした仮説であれば、正しいか正しくないかの判断が可能です。ところが、論理や根拠があいまいな仮説は、論理の検証やより詳細なデータを作る必要がうまれ、意思決定を長期化させます。そう考えると、これもPDCAサイクルが良いか悪いかという論点ではなく、「十分な意思決定のできる仮説が作れるか?」という問題であり、それが作れるのであればむしろ意思決定のスピードは加速します。
評価(Check)が機能しない
最後によくある主張として「評価(Check)が機能しない」という批判があります。どういうことかというと、例えば…
✓ 計画段階で数値目標が入っておらず、事後に結果の良し悪しが客観的に判断できない
✓ そもそも振り返りの場が開催されない
✓ 当初作成した計画がプロジェクトの最初に参照されただけで、後は誰も見ておらず計画通りの行動を心がけた人がいないため、計画にそった評価が無意味なものになっている
などです。果たしてこれもPDCAサイクルというフレームワークの問題でしょうか?どちらかというと「そもそもPDCAをやっていない」ということですので、これもPDCAサイクル自体の問題ではなさそうです。
ただし、「PDCAサイクルを組織できちんと徹底するのが難しい」という批判であれば、それはその通りだと思います。それはPDCAサイクルが難しいと言うより、日本人が「仮説をたてて検証する」という発想を非常に苦手としていることが原因です。ハイコンテクストな文化の日本では、主張やロジックの中身ではなく「誰が言ったか」「みんながどう思ったか」で物事が進んでいくことが多いため、そもそもの仮説が存在しなかったり、作ったとしても仮説よりもそのときの人間関係が重視されてしまうこととなり、結果的に当初仮説が何の意味をもたないということになってしまいます。
ただし、これもPDCAサイクルの問題ではなく、実施する私たちの問題です。PDCAサイクルの本質を理解した上で「成果をだすためにしっかりとやるんだ」と関係者で意思決定し、きちんと徹底することが重要です。
✓ 変化が激しい時代にこそPDCAが重要
✓ 計画を「行動計画」と捉えるなら時代に合わないが、「仮説」と捉えるならむしろ重要な要素になる
✓ 「計画=仮説構築」を論理的にしっかりとやることで意思決定はむしろ早くなる
✓ 日本人は仮説検証のプロセスが苦手。やるならきちんとやること
PDCAサイクル実践のポイント
ということで、PDCAサイクルにまつわる誤解を解いた上で、「では、どうやって実践すればいいか?」のポイントを整理します。
ポイント①:計画=仮説の立て方
ここまで「計画=仮説」と捉えることの大切さを繰り返しお伝えしてきましたが、「じゃあ仮説はどうやって作るの?」というところです。結論から言えば、PDCAサイクルにおける仮説とは
◎PDCAサイクルの仮説に最低限含むべき内容
✓ 目的
何を目指しているのか、大きな狙いを明確にします
✓ 目標
数字などで客観的に評価出来る要素を必ず入れる
✓ 実行内容
詳細な実行計画である必要はありません
✓ 目標が達成できる理由
なぜその実行内容でその目標た振り返りの際に必ず使います
が記述されていれば最低限OKです。例えば、営業担当の売上拡大計画であれば…
✓ 目的:売上拡大
✓ 目標:新規案件から3件の受注を獲得
✓ 実行内容:新規テレアポ300件を実行
✓ 目標が達成できる理由:前回の新規テレアポからの成約率が1%だったため
この程度の情報があれば、十分に振り返りができます。
より詳細な仮説の作り方については、以下の記事も参考にしてください。
blog.uwanokikaku.xyz
ポイント②:仮説検証の機会を事前に決める
仮説を立てて実行することになったならば、必ず先に仮説検証の振り返りの機会を決めておきます。具体的な日程でも、「プロジェクトがここまで進んだら」というやり方でも構いませんが、必ず実行されるようにしましょう。
大事なことは、仮説検証のミーティングをあらゆる他の業務よりも優先順位が高いものと位置づけること。万難を排して必要な参加者が一同に集まるようにしてください。必要な関係者が揃わなければ「あれはどうなった?」「ちゃんとやれていたのか?」と事実確認がそもそもできず、振り返りが機能しません。また、振り返りは、仕事の中で最も学びと成長のある場です。リソースの成長が事業の成長を実現しますので、何に置いても最優先で徹底しましょう。
ポイント③:実行よりも仮説が重要
以上のプロセスで最も成果を上げるためには、「実行よりも計画が重要」という意識をみんなで共有するのがポイントです。計画=仮説の段階で十分に検討されていれば、想定しうる問題への対応方法を先に決めておくことができます。「プレモータムシンキング」という思考法もありますが、「失敗するとしたらどういうときだろう?」と考えながら、その原因を先手を打って消しておきます。そうして十分検討された計画が作れていれば、実行中はスムーズに物事が進み、問題が生じても常に想定の範囲内で処理することができます。
十分に検討された質の高い計画があれば、その実行プロセスの難易度が下がり、低いコストのリソースで実施することができます。反対に、計画が十分に練られていないと実行の難易度が上がり、優秀な人財を高いコストで確保する必要がでてきます。業務プロセスを効率化するためには「頑張るのは実行よりも計画」と覚えておきましょう。
✓ 「計画=仮説」には目的・目標・実行内容・目標達成できる理由の4点を必ず入れる
✓ 人と組織の継続的な成長なくして事業の成長はない。仮説検証は最も重要な業務と位置づける
✓ 万全の計画で実行の難易度が下がっている状態を目指す
おわりに
PDCAサイクルの基本からよくある批判とその誤解、そして実施するための重要なポイントを解説してきました。一読しただけではなかなかすぐにはうまくいかないかもしれませんが、このブログで学習を続けながら身につけて行きましょう。
論理的思考・問題解決基礎講座