「コスパのいい知識を身に着けよう」というお話│抽象度の高い知識と思考の使い方
「考え方」にこだわった果てに見つけた考え方
「思考力が求められる時代になってくるぞ!」ということをちきりん氏が記事にしてから、そうした時代の変化に対しては多くの人が賛意を示している様に思います。
件のちきりん氏の記事はこちら
◆時代の大きな変わり目が来てます(Chikirinの日記)
ちきりん氏の指摘を深堀りした記事がこちら
◆ちきりん氏「思考時代」に求められるのは価値体系を創り上げる「思想」の力
自分は今まで「考え方」「問題の解き方」に関心があり、中高生くらいの頃から延々と「どう考えたらいいのか」を考えてきたのですが、そうした経験の中でようやく
これだ、見つけた!
「抽象度」を理解する
話の前フリとして抽象度という考え方を整理しておきます。
あらゆる情報、あるいは概念には抽象度があります。「田中さん」よりは「人間」の方が抽象度が高いですし、「水」よりは「液体」の方が抽象度が高いです。
情報の抽象度を高める処理の仕方が抽象化です。抽象化とは、対象を構成する要素の中から無関係なものを捨象して1つの要素を取り上げることです。上記の例に倣うならば、例えば
▼「田中さん」の構成要素
【具体】田中さんは、人間の男性であり、京都在住の41歳のメーカー勤務の会社員である。
↓ 抽象化
【抽象】「人間」「男性」「京都在住」「41歳」「メーカー勤務」「会社員」
▼「水」の構成要素
【具体】水は、化学式 H2Oで表される水素と酸素の化合物の液体の状態のものを指す。
↓ 抽象化
【抽象】「 H2O」「化合物」「液体」
抽象化自体は何も難しくないのですが、コミュニケーションの中で有効に使おうと思うとセンスが必要です。抽象化の作業で大切なのは
無関係なものを捨象し、関係のあるものだけを抜き出す!
仮に「田中さんは毎日食事と睡眠をとる」という主張があったとき、その理由を説明する田中さんの要素は「田中さんは人間である」であり、「田中さんは男性である」「田中さんは京都在住である」「田中さんは41歳である」などといったことは、主張の説明に全く関係がありません。田中さんの説明としては有効でも、「田中さんは毎日食事と睡眠をとる」という主張に対する説明としては有効ではない、というところを正しく理解するセンスが必要になってきます。
「抽象的に考えるのが苦手」という方の多くはここで躓きます。特定の文脈において適切な抽象化ができないのは、何が本質的に関係のある要素なのかがわからないことが原因です。
抽象度の高い知識と低い知識
では、なぜある人は本質的に関係のある要素を見つけることができ、ある人にはそれができないのでしょうか。
その違いは抽象度の高い知識の有無にあります。先の例で「田中さんは毎日食事と睡眠をとる。なぜならば、田中さんは人間だから」と適切に説明するためには、「人間は生体としての機能を維持するために食事によるエネルギー摂取と睡眠による脳機能の回復が必要である」という知識が必要です。仮にその知識がなければ(それを想定するのはナンセンスですが)、なぜ田中さんが毎日食事と睡眠をとるのかわからないはずです。
【具体の知識】人間の男性であり、京都在住の41歳のメーカー勤務の会社員である田中さんは毎日食事と睡眠をとる
【抽象の知識】人間は生体としての機能を維持するために食事によるエネルギー摂取と睡眠による脳機能の回復が必要である
具体の知識と抽象の知識のが両方あって初めて適切な抽象化が可能ということです。もし、自分は抽象的に考えるのが苦手だなあと思う方がいれば
抽象的な思考が苦手なのは、そもそも抽象的な知識が不足しているから
抽象度の高い知識の例
「抽象度の高い知識」という考え方について、もう少し詳しい例を出して解説します。
例えば、このブログでも取り上げている知識として目標設定理論という心理学の科学理論があります。
目標設定理論のロジック
【条件①】目標が困難である
【条件②】目標が明確である
【条件③】本人が目標達成にコミットしている
↓
【結果】その人のパフォーマンスは向上する
「目標の困難性」「目標の明確性」「目標達成へのコミットメント」という3つの条件が揃うと、その人の仕事や勉強のパフォーマンスが向上するという理論です。これは半世紀以上の実証実験によって科学的には概ね合意されている因果関係であり、3つの条件さえ揃えてしまえば誰でもパフォーマンスが上がるという結果が再現されると考えられます。
抽象度の高い知識は「人間とは~」「いつでも~」など、普遍的に成り立つ包含関係や因果関係で示されます。「田中さんは~」という具体的な知識は田中さんにしか使えませんが、「人間は~」という知識は誰にでも使えます。
もし、こうした普遍性の高い再現可能な知識の中に
・仕事のパフォーマンスが上がる
・収入が増える
・短い時間で多くの記憶が定着する
・人間関係がうまくいく
・健康になる
といった自分がほしい結果につながる知識があったならばどうでしょうか。そうした知識を理解し、自分の人生を良くするために使ってみたいと思いませんか。
抽象度の高い知識を身につける1つのメリットは
自分がほしい結果を得ることができる(確率が上がる)!
「目標達成理論」に関する詳しい解説はこちら
◆なぜ目標を設定するのか?目標設定の本質と達成確率向上の具体的テクニック
◆もう迷わない!目標設定の基本・本質と実践方法を解説するオススメ記事5選
人の話の本質を理解する
抽象度の高い知識という視点は、人の話をより深く本質的に理解する上でも有効な視点です。
先日、幻冬舎箕輪さんのインタビュー記事がSNS上で拡散されていました。
解説記事にも書きましたが、このインタビューで箕輪氏が語っている最も重要なメッセージは以下の内容でした。インタビュー記事のロジック
【取るべき行動】自分の本音を守り、自分の企みを持ち、オリジナルな行動をする
【その行動を取る本質的な理由】価値とは希少性である
↓
【期待される結果】価値が生まれる
メッセージの中心は「自分の本音を大切にして生きていこう」ということなのですが、「なぜそうするのがよいと言えるのか?」の理由については「価値とは希少性である」ということが語られていました。
【原因】自分の本音を守り、自分の企みを持ち、オリジナルな行動をする
↓
【結果】価値が生まれる
この因果関係だけを説明されるとどうでしょうか。「まあそうかな」と思いつつも、そのつながりは少々漠然としています。そこに「価値とは希少性である」というより抽象度の高い視点から理由が語られることで、「他人と違うことを積み重ねて価値を生み出していく」というロジックへの納得度が高まります。人の話を聞くときには
この人はなぜその因果関係が成り立つと思っているのか?
箕輪氏のインタビュー記事を詳しく解説した記事がこちら
◆前提条件とロジックを自分の頭で整理する力が思考力であり理解力│箕輪氏『死ぬカス』に学ぶ
具体と抽象の両面を常に考える
「田中さんは人間」「目標設定理論」「価値とは希少性である」という3つの話の中で一貫しているのは、具体と抽象の両面を常に考えるという考え方です。
ここでいう具体とは目に見えている世界のできごとです。誰かが何かをしている、何かを言っているという、実際に知覚できる領域。具体をしっかりと認識した上で、同時に「なぜそうなのだろう?」と考え、より抽象的な説明を探します。
具体と抽象の両面を考える!
コスパのいい知識を身に着けよう
ということで、この記事の一番のメッセージはコスパのいい知識を身に着けようということ。抽象度の高い知識を身につけ、実際の生活の中で応用していくことが最速最短の道です。
もちろん、特定の領域では具体的なノウハウも重要です。しかし、ノウハウという具体的な知識だけで満足せず、「なぜこのノウハウはうまくいくと言えるのか?」というより抽象度の高い本質的な知識を探すことが同時に必要です。人生の貴重な時間を無駄にしないためにも、本質的な知識を学んでいくことを心がけましょう。少なくとも、このブログではそうした知識を中心に発信しているつもりです。