ウワノキカクのキカクメモ│問題解決のための論理・ロジカルシンキング

問題解決のためのロジカルシンキングを学ぶためのブログです。

人間の認知のルールを記述する「認知論理」の研究┃iPhoneが人の心を掴んだ理由の分析

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このブログでは「論理」あるいは「論理的思考」という概念について、より実践的な新しい理解を提供すべく日々研究・情報発信しています。


今回は、中でもその中心的な視点である「認知論理」という考え方について、なぜこのような着想が重要なのか、どの様に有効に働くのか、その基本的な課題意識を解説します。

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theessence.theletter.jp

「認知論理」とは何か?

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「認知論理」の課題意識ー「論理的」とは何を指すか?

ビジネスの世界では「ロジカルシンキング」という概念が、もはや流行り言葉を通り越して、ナレッジワーカーの大前提として認識されつつあります。


「論理的に考えることでビジネスの課題を合理的・効率的に解決しよう!」というのは本当に大切なことで、私自身、ビジネスコンサルタントとしてその方法論にはどっぷり浸かってきましたし、そうした方法論が実際にビジネス上大きな成果を生み出すことを日々実感しています。


そうした社会的な貢献を大きく認めた上で、それでもなお常々疑問に思っていることがありました。


それは、「ロジカルシンキングの手法は、『論理的』と言えるものをすべて網羅しているのか?」です。


コンサルタントの実務の中で漠然と抱いていたのは、マッキンゼーの問題解決手法の一部として紹介されるロジカルシンキングの実践法は「因果関係の分析に弱い」という感覚でした。


確かに、ロジックツリーという手法の中にはWhyツリーというものがあり、そこで因果の分析を扱ってはいるのですが、この方法では

□ 現象が複合的な要因によって生じていることが記述しづらい
□ 因果の循環性(システム的な変化)が記述できない

といった課題を感じていました。


こうした点を乗り越えるためには、TOC(制約理論)の生みの親であるゴールドラット博士が開発した「思考プロセス(Thinking Process)」や『学習する組織』でおなじみのピーター・センゲ氏の「システム思考」などで補う事が必要でした。


この様に「論理的って何を指すのだろう?」「論理的な思考って何だろう?」という問いを突き詰めていく過程でたどり着いたのが「認知論理」というコンセプトです。


詳しいことは割愛しますが、大まかに捉えるならば「人間が物事を認知・理解するときのルールを『論理』と決めよう」という考え方です。


ロジックツリー的な分析手法に加え、変化を記述する因果関係やシステムの分析方法までを包含した、より広範で多くの人が最も理解しやすいルールで「論理」という概念を体系化しようという試みです。


実務家の課題意識から生まれたテーマですが、アカデミックなさまざまな領域と整合性の取れたものであることが不可欠だと捉えており、知識体系としての深さと実践的な活用度の両方を担保したものにしていきたいと考えています。


以下、ビジネス上非常に有名な認知論理的な現象を取り上げつつ、「認知論理」がどのようなことをしようとしているのかを解説します。
 
<関連書籍>

iPhoneが人の心を掴んだ瞬間-スティーブ・ジョブズの伝説のプレゼンテーション

「認知論理」的に興味深いのは、2007年1月、「Macworld」でスティーブ・ジョブズ氏がiPhoneを初めて世の中に公表した、かの有名なプレゼンテーションです。
youtu.be

今日、革命をおこす新しい商品を3つ発表する。


1つ目、ワイド画面でタッチ操作のiPod。


2つ目、革命的な携帯電話。


3つ目、画期的なインターネットコミュニケーション端末。


これらは3つの別のものではない。


これらは1つなんだ。


名前は「iPhone」。


今日、新たにアップルが電話を再発明する。

ぜひ今一度動画を視聴していただきたいのですが、2007年の話でありながら、いま見ても震えるような感動を覚えます(私だけでしょうか)。

iPhoneのロジック-興味深い2つのポイント

このプレゼンテーションには興味深い点が2つあります。


1つ目のポイントは、「iPod・携帯電話・インターネット端末の3つが組み合わさってiPhoneなんだ」と説明されたとき、誰もがその意味を理解できるということです。


もちろん、そうして示された「iPhone」というものが実際どのようなものなのかはここまでの話では分かりませんが(だからこそ、この後にジョークが続くわけですね)、多くの人は「なんとなくこういうもの」というイメージが頭の中に浮かんだのではないでしょうか。

「A・B・Cの3つが組み合わさってXである」

という説明はたとえその内容が未知であってもある程度理解が可能ということです。


2つ目の興味深いポイントは、「まさかその3つが1つのもののことだとは!」という「まさか!」な驚きについてです。


「iPod・携帯電話・インターネット端末」という3つの構成要素は、今でこそスマートフォンの当然の機能ですが、当時は一つひとつが異なる機器で、それらが一つにまとまっている状態はまだまだ一般的ではありませんでした。


つまり、これらの3つにはイメージ的な距離の遠さがあったわけです。


A・B・Cの3つが概念的に似通ったものであれば、それらが全て組み合わさってもそれほど驚きは生まれません。


例えば、

「ポット・カップ・ソーサーの3つが揃ってティーセットである」
「フィラメント・ガラス球・口金の3つが組み合わさって電球である」
「妻・息子・自分の3人が揃って◯◯家である」

と言われても、納得こそしても特に驚きはありません。


しかし、互いに距離感のあるものが3つくっついてしまうのは想定外なことで、そこに驚きが生まれます。


少なくとも、プレゼンテーションを聞いていた聴衆は「iPod・携帯電話・インターネット端末」が1つのものにまとまるということは想像もしていなかったはずです。


まとめると

■ 未知のものでも、「A・B・Cの3つが組み合わさってXである」と言われるとなんとなくわかった気がする
■ 要素同士の概念的な距離が遠いほど、組み合わさったときの驚きが大きくなる

このような人間の認知的な特徴を上手に活用したのが、このプレゼンテーションの上手なところです。
 

「認知論理」による説明ーiPhoneが生み出したもの

距離感のある3つのものが組み合わさり、新しい1つのものとして生まれ変わる。


これが、iPhoneのプレゼンテーションの面白さでした。


このように、複数の構成要素が組み合わさることで生まれた新しい全体像のことを、心理学ではゲシュタルトと言います。


同じ漢字を見つめ続けるとおかしな感覚に陥る現象を「ゲシュタルト崩壊」と言ったりしますが、まさにそこで使われているゲシュタルトという概念です。


人間は物事を認識するとき、複数の要素をまとめ上げて一定の意味のある形で捉えており、そのときにまとめあげられた認識対象をゲシュタルトと言っています。


このゲシュタルトという概念から見ると、iPhoneというのは

X:iPhone
├ A:iPod
├ B:携帯電話
└ C:インターネット端末

という情報構造を持ち、部分(ABC)と全体(X)によって一つのゲシュタルトを構成していると言えます。


繰り返しますが、人間には複数の要素を個別に見るのではなく、意味のあるまとまりとして認識しようとする認知的な作用があります。


こうした、人間なら誰しもが持っている認知的な働きをベースに論理を定義していこうと考えるのが「認知論理」という考え方です。


この記事では個別の内容には踏み込みませんが、「認知論理」の枠組みではこの様に部分と全体によって概念相互の関係性を規定することを構造化と呼んでいます。


詳しくは個別の記事をご覧いただければと思いますが、iPhoneのプレゼンテーションはこの構造化という論理の型を用いることによって、「iPhone」という新しいゲシュタルトをこの世の中に生み出したということができます。

「認知論理」研究の展望

以上で大きな話は一旦区切りを迎えますが、最後に少しだけ、この「認知論理」という研究テーマの成果として目指しているところを記しておきます。


大きくは2つの方向で成果を生み出していければと考えています。

①人間に関するより多くの現象を統一的なルールで説明する
②習得可能な実践的知識体系としてまとめ上げ、人間の認知・情報処理能力を向上させる

①については、現在時点では「抽象度に基づく概念の階層性」「因果性に基づく変化の規則性」の2つのルールが認知的な体系の骨格として説明可能だと考えており、科学と哲学の両方の面から整合的な体系を作っていければと考えています。


②については、実務家である自身の経験も踏まえながら、処世術として利用可能な実践のための知識体系としても価値があるものにしていきたいという思いがあります。


少なくともコンサルタントと言われる職業においては、一定の思考作業によってそれがなかった場合と比較して大きなパフォーマンスを生み出すことが可能な方法論がありますので、既存の知識体系をうまく昇華させながらさらなる教育プログラムを作っていこうと考えています。


まだまだ始まったばかりの研究ではありますが、多くの人に貢献する成果が出せるように頑張っていきます。

おわりに

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伝説のプレゼンテーションとして多くの人を虜にしたスティーブ・ジョブズ氏のiPhoneのコンセプト解説をベースに、「認知論理」という考え方の課題意識をお話してきました。


話の中で出てきた個別の解説についてもまだまだ甘いところもありますが、今後発展させていければと思いますので、興味のある方はぜひ今後もフォローしていただけると嬉しいです。

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