ウワノキカクのキカクメモ│論理的思考・問題解決のトレーニング

問題解決や論理的思考を探究し続けるブログです。企業でも個人でも、抜本的なビジネス改善から日々のアイデア仕事まで、定めた目的を達成するためのあらゆる営みを「問題解決」と捉えて、理論と実践を一つの体系でシンプルに整理・統合することを目指しています。

本質に迫る論理的思考のトレーニング方法│批判的思考で仮説を磨く

「圧倒的に賢い人」の特徴として、「物事の本質を捉える力が高い」というものがあります。普通の人には思いつかないような本質を抉るアイデアが次々と生み出される人のアタマの中は一体どうなっているのでしょうか?
 
 
今回は、著名な社会派ブロガーちきりん氏の文章を題材にしながら

「どうやって本質を見つける思考力を鍛えていったらいいの?」

というところを明らかにしていきます。

 
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ちきりん氏の「本質に迫る思考力」

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「この人すごいなー!」と改めて思ったエントリー

私がこの記事を書こうと思ったのは、「「なにで(機械に)負けたら悔しい?」」という記事を読んで、改めて「この人頭いいなー!面白いなー!」と感じたからでした。
 

chikirin.hatenablog.com
読んでいただければ分かる通り、この記事ではタイトルにある「どんなことで機械に負けたら人は悔しいと感じるのだろう?」を突き詰めて考えを進め、その先にある人間の本質を突いた結論を提示しています。


文章は非常に読みやすくサラッと書かれていますが、その内容は「なるほど確かに!」と人間の本質に迫る文章で興味がそそられます。そこで「ちきりん氏のこうした考え方を自分のものにするにはどうすればいいのでしょうか?」と考えていくのが今回のお題です。

【引用】「本質に迫る思考力」の実例と解説

そこでまず、記事そのものを見ながら

「こんなところで本質思考が使われている!」
「この考え方は使えそうだ!」

というところをピックアップしていきましょう。


全文は「なにで(機械に)負けたら悔しい?」で読んでいただくとして、ここでは具体的に数カ所引用させていただきながら、本質に迫る思考力の実例を見ていきます。

 
まず、なんといっても冒頭のこの箇所。

たとえば体力的なことで機械に負けても、悔しいと感じる人なんてもはやいませんよね。
 
「くそー、パワーショベルの野郎は何トンも持てるのに、俺は 100キロしか持てないぜ。悔しー!」などとは思わないし、「どんなに頑張ってもプリウスより早く走れない。あんなハイブリッドな奴にさえ勝てないなんて、オレはもう絶望だ」とも考えません。
 
人間は飛ぶこともできませんが、だからって、機械(飛行機)に対して悔しいなんて思わない。
 
「飛行機を作ったのは人間だから悔しくないんだ」って?
 
そんなこと言ったら、将棋ソフトを作ったのだって人間です。今のところ、「人間を作った機械」は現れてないので、そこまで突き詰めるなら人間はナンも負けてません。

「人間はどんなことで機械に負けると悔しいと感じる(=関心を持つ)のだろう?」という疑問に対して、具体例を上げながら「機械に負けるなんてむしろ当たり前で、本当は悔しいと思うほうが珍しいことなんじゃない?」という「抜け落ちていた本当のところ」を指摘します。
 
 
将棋の話となれば「人間が機械に負けるなんて…!」とつい感情的になりますが、「でもそれってそこまで驚くことじゃないんじゃない?」と指摘します。多くの人の感情的な反応から一歩引いた視点で物事を捉えて

「なんでだろう?」
「本当かな?」

と問いかけ、「本質的には機械に負けたって驚くようなことじゃないんじゃないのー?」と気づかせてくれています。
 
 
本文は、以降「じゃあアタマを使うことで負けたら悔しいの?」ということで「暗記」「計算」でアタマを使うことでも人間は負けているしその事実をなんの苦なく受け止めていることを指摘します。更に、「詰将棋」「電車の最短路線を調べる」(いずれも前提条件が明確なパズル的な問題)といったことでも別に悔しくもなんともないということも確認し、これらの具体例を検討したまとめとして…

つまり、身体能力はもちろん、頭を使うことにおいても、
・暗記
・計算
・正しい答えが一つだけ存在するパズル的な問いの答えを探すことに関しては、私たちはもう機械に負けても、あんまり悔しくないんです。

と明かします。


「ほら、人間なんてアタマで機械に負けてることだってたくさんあるでしょ?」と事実をベースに確認しています。ここまで読み進めると

「確かにその通りだ」
「でも、将棋で人間が機械に負けるのはやっぱりなんだか気になる…」

という気持ちになり、このギモンへの答えが欲しくなっていきます。
 
 
その後さらに「将棋」「天気予報」「文章を書くこと」などの具体例を引き合いに出しながら、人間の本質へと迫っていきます。

将棋の場合は、大局観と呼ばれる形成評価の能力などが(現時点では)チャレンジを受けてるわけですが、これだってそのうち機械に負けることに慣れてしまう可能性は、大いにあります。
 
たとえば天気予報に関しても、今ではプログラムのほうが人間より正確だと言われています。こういうの、気象予報士の方は悔しいかもしれませんが、私はまったく悔しくありません。
 
私の専門である「文章を書くこと」に関しても、ニュース報道を元に自動的に文章を書くソフトが現れ、それが「Chikirinの日記」より人気になったら・・・悔しくないとは言わないけど、それもすぐに慣れそうです。
 
特に、今ブログを書いてない人にとっては、悔しいはずもなく、単に「超便利なソフトができた!」ってだけでしょう。

突き詰めていくとたどり着いたのは「ある人にとっては悔しいかもしれないが、別の人にとっては悔しくもなんともない」という領域があるということ。「なにで(機械に)負けたら悔しい?」の答えは以下の部分です。

結局のところ、「自分と直接的に競合しない限り(=自分の仕事や価値を奪わない限り)、コンピュータがどんどん進化するのは非常によいことだ」と私たちは考えているんです。
 
だから、人間がやってることの多くは、これからもどんどん機械に置き換えられていくでしょう。
 
そして、(今までもそうしてきたように)私たち人間は、「現時点では機械にはできない分野」に逃げ込んでいくしかありません。

人間は機械に負ける(置き換えられる)ということを繰り返してきたし、これからもずっとそうなる。自分と直接的に競合するものについては「悔しい!」「どうしよう!」と思うけれど、そうでないものは「世の中便利になったなあ」と受け入れていくわけです。記事の冒頭の「人間はどんなことで機械に負けると悔しいと感じるのだろう?」という疑問に対する直接の答えが出てきました。そしてそれは、非常に深く、本質的な、人間に対する普遍的な洞察だと感じるのではないでしょうか。
 
 
話はその後更に展開し、今後の人間の生き方についての問いかけとちきりん氏の考えの紹介で終わります。結論は読んで頂くとして、将棋の話題という社会を賑わした具体的な話題から入って一歩ずつ本質に踏み込んでいく思考プロセスをここまで実感していただけたのではないかと思います。続きでは、この「本質に迫る思考力」の裏にある考え方を紹介していきます。
 

POINT

✓ 身近なテーマからでも思考を深めることによって本質にたどり着くことができる
✓ ちきりん氏の文章にはその本質に迫る思考プロセスがふんだんに使われている

 

「本質に迫る思考力」を高めるには?

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具体例で批判し、絞り込み続ける

「思考を深めることで本質に迫る」というテーマは、「本質を見つける思考法│理由を問い、思考の抽象度を上げよ」という記事で書いたことがあります。かいつまんで言えば「理由を考えよう!」「思考の抽象度をあげよう!」「普遍的に当てはまる本質を探そう!」ということを書いております。
 
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大きなことはそちらで書いた通りなのですが、今回は更に踏み込んでより実践的な技術・テクニックのところに触れていくという位置付けです。そこでまずは上記で引用した文章の流れを見ていくと、以下のようになっていることに気づきます。
 
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記事のタイトル通りの「なにで(機械に)負けたら悔しい?」という問いかけが冒頭にあり、具体的に「~で負けたらどう?」と考えながら、「これは違う、これも違う」とどんどん絞り込んでいきます。そうして絞り込んだ先には「人によって悔しさが違う」というテーマがあることにたどり着き、結論は「自分と直接競合するもの」で負けると悔しいと感じるということでした。
 
 
この「問いかけ→具体例→絞り込み→本質的な結論」という文章の流れにこそ、本質にたどり着くまでの考え方の秘密があります。「機械に負ける」というはじめの問いでは想像もしなかったものが見えてきたのは、いろいろな具体例を考えて領域を絞り込んでいくと、その先には「悔しい」と感じるもの共通項が見えてきたから。無駄なものを削ぎ落とした先にある本質にたどり着くこの考え方、真似してみたくありませんか?

本質に迫る論理的思考のトレーニング方法

こうした思考力を高めるにはどうしたらよいのでしょうか?結論から言えば、批判的に考えることが本質に迫る上で最も重要なポイントです。
 

◎本質に迫る論理的思考のトレーニング方法

  1. 問いを決める
  2. 仮説をつくる
  3. 「その仮説が成り立たない具体例」を見つける
  4. 「その仮説が成り立たない理由」を考える【自分の仮説を自分で批判する】
  5. 理由を踏まえて次の仮説をつくる

以下繰り返し

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ちきりん氏の文章では具体例から絞り込みが続く形で文章が書かれていましたが、その本質は仮説を批判的に検討しながら「本当にそうだと言えるもの」を厳密に定義していく考え方です。以下、具体的に実践例を見ながら考えていきましょう。
 

実践例「どういうときに人は転職しようと思うのか?」

「転職」というテーマでこの考え方を実践してみます。まず初めにやることは、自分が考えたい問いを決めることです。今回は「どういうときに人は転職しようと思うのか?」を考えてみましょう。
 

1.問いを決める
「どういうときに人は転職をしようと思うのか?」

 
次に、この答えとなる仮説を考えていきます。自分の実体験も踏まえると「仕事をしていて辛いな、しんどいなと感じるとき」が思い浮かびましたので、仮説として設定します。
 

2.仮説をつくる
仕事をしていて辛いな、しんどいなと感じるときに人は転職したくなる

 
仮説をつくったら、速やかに批判に向けて頭を切り替えます。具体的には、現実を見回しながらその仮説が当てはまらない例を見つけます。例えば、「仕事が辛いと思っても、給料が良ければ耐えながら働く」「しんどくても自分の成長になると思えばもう少し頑張ろうと思う」など、現実として仮説が正しくないと言い切れる例を出します。
 

3.「その仮説が成り立たない具体例」を見つける
✓ 仕事が辛いと思っても、給料が良ければ耐えながら働く
✓ しんどくても自分の成長になると思えばもう少し頑張ろうと思う

 
これらの具体例を見ながら、「その仮説が成り立たないと言える理由」を考えていきます。「転職」というのは人生の大きな決断です。仕事の収入は生活を支える土台であり、簡単に失うことはできません。また「苦しい」「辛い」と感じるのは自分の限界に向き合っているからであり、それを乗り越える方法が見つかれば、自分を成長させることにも繋がります。加えて、自分はもとより家族や職場の同僚も含めて多くの人に影響を与えます。転職は非常に多くの要素が絡み合う大きな意思決定。そういうときは、「嫌なことから離れられる」というメリットだけではなく、転職によって生じうるデメリットも同時に考えて理性的に比較しなければ良い判断にはならないはず。人間とはそういうものだと考えました。
 

4.「その仮説が成り立たない理由」を考える【自分の仮説を自分で批判する】
人間は、人生に影響する大きな意思決定をするときは、メリット・デメリットを理性的に比較して決めるものだから

 
すると確かに、「仕事が辛い・しんどい」というだけでは転職しようとは思わないことに納得しました。「転職のメリットがデメリットを上回るときに人は転職しようと思う」と言えそうです。
 

5.理由を踏まえて次の仮説をつくる
転職のメリットがデメリットを上回るときに人は転職しようと思う

 
これで最初に出した仮説よりは一歩本質に踏み込んだ仮説になりました。しかし、まだまだ検討の余地がありそうですね。例えば、「転職した方がいい(メリットがデメリットより大きい)とわかっていても転職に踏み切れない」「そもそもメリットもデメリットも不確実なので判断できない」など、具体的なシーンを想定しながら様々な批判ができそうです。こうして「仮説を作る→自分で批判する→仮説を更新する→自分で更に批判する→…」と繰り返していくことによって、思考のレベルを高めて本質的なところに近づいて行くことができます。
 

POINT

✓ 本質は無駄を徹底的に削ぎ落とした先にある
✓ 本質に迫る思考とは、自分の仮説を自分で批判する思考である
「仮説→批判→次の仮説→次の批判→…」と繰り返すことによって思考が深まる
仮説と反する具体例をまずは見つけると批判が考えやすくなる

おわりに

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具体例を考えながら批判し、無駄を削ぎ落として本質に迫る。具体化・抽象化という論理のつながりを活用することで、こうした思考が可能になります。この考え方はちきりん氏の以下の本も参考になりますので、ぜひ読んでみてください。

今回のような実践的な論理的思考の活用については以下の記事でまとめていますので、そちらもご参照くださいませ。
 
論理的思考・問題解決基礎講座