前回の記事では、構造化の論理の「分析」という論理展開について解説しました。
その流れを受け、今回は部分と部分を組み合わせることでより上位のテーマを設定する「総合」という論理展開を紹介します。
「構造化の論理」具体的実践方法②ー総合
便利な「分析」の落とし穴
情報を構造化することを考えると、さほど多くの人は意識することなく「分析」に走っていると思います。
考えるテーマを決め、それを一番上に持っていきながら、関連する情報をその下にぶら下げるように書いていく…。
今日のランチはどこに食べに行こう?
┣和食: 焼き魚・定食・丼etc
┣中華:麻婆豆腐・餃子・酸辣湯麺etc
└洋食:オムライス・パスタ・ハンバーグetc
この様にテーマを細かくブレイクダウンしていく「分析」という論理展開が日常的に非常に使いやすいものであることは間違いありません。
まず大きなテーマを掲げ、それについて具体的に考えを進めることで合理的な意思決定を行う。
この考え方は、数ヶ月から数年に至るような大きなプロジェクトマネジメントにはじまり、会議のアジェンダ設定や日々のタスク管理など、幅広く活用できます。
しかし、この「分析」には落とし穴があります。
それは、必要な解決策が掲げたテーマの「外」にある場合、「分析」では答えが出せないということです。
例えば、上記の例では「今日のランチはどこに食べに行こう?」とランチを食べに行くことを前提に思考を進めていますが、もしこの人がダイエット中で極力カロリーを抑えたいと思っていたとしたらどうでしょうか。
外食するんじゃなくて、低カロリーのお弁当を作るか、コンビニでサラダとサラダチキンでも買ってきたら?
つまり、「今日のランチはどこに食べに行こう?」という問いがそもそも間違っていたわけです。
この場合、「どこに食べに行こう?」と思ったならば、そこで踏みとどまって「いや、外食はカロリーが高くなりやすいから、食べに行かずに済ませる方法を考えよう」と、掲げたテーマの外に解決策を探しにいくべきなのです。
この「掲げたテーマの外に解決策を探しに行く」という頭の使い方が「総合」という論理の扱い方です。
「構造化の論理」の「分析」と「総合」の違い
では、ここからはその「掲げたテーマの外」を見に行くための「総合」という論理展開について詳しく解説していきます。
「掲げたテーマの外を見る」というのは「掲げたテーマを『部分』と捉える」ということ。
「構造化」とは部分と全体の論理ですが、はじめに設定したテーマを「全体」と捉えるのが「分析」、「部分」と捉えるのが「総合」です。
これは、自分の思考を相対化するということでもあります。
思考とは常にテーマや問いから始まります。そして、それを具体的に分析することによって情報が構造化され、合理的な解決策を選び出すことができるようになります。
これは、はじめに掲げたテーマや問いを絶対的なもの、思考する領域の全体とすることを前提に成り立ちます。
こうした「分析」に対し、「総合」とははじめに思いついたテーマや問い自体が間違っているのではないか、他の可能性があるのではないかと相対化する思考法です。
思いついたテーマや問いを一度手放して相対化し、それとは全く違う可能性をいまの自分の視野の外に探しにいく考え方です。
いま自分は「○○」と思っているけれど、もしかしたら「××」の可能性の方が正しいかもしれない…
これが意識的にできるようになると、自分の殻を破り、自分の可能性を自分の力で切り開き続けることができるようになります。
「総合」の実践例
ここからは「総合」の具体的な実践方法を解説していきます。
例
「日本の食文化」というテーマでレポートを書くことになったAさん。
「日本ではよく米を食べる」ということに着目し、「米を食べるのは日本の食文化だ」という趣旨でリサーチを行い、レポートを提出することにした。
「日本ではよく米を食べる」ということを論理の最上段に掲げ、その内容や理由を具体的に分析しながら論を進める考え方です。
これはこれで一見問題がないように見えるかもしれませんが、「総合」という論理展開を活用すれば更に思考を深めることができます。
続き
同じことに着眼したBさんは、「でも、米を食べる国は日本だけではないはずだ」と思い、他の国の食文化も調べることにした。
結果、日本のみならず「アジアではよく米を食べる」ということが言えるだろうと思い、「米食の文化があるアジア各国を比較し、その中で日本の特徴を明らかにした」という趣旨のレポートを提出することにした。
「日本の食文化」という限られた範囲だけを見て分析したAさんと、与えられたテーマの外へ出て「アジアの食文化」というより広い視野で総合的に分析したBさん、どちらが論述として価値が高いかは比べるまでもありません。
もちろんレポートの主題は「日本の食文化」ですので、「アジアの食文化」というテーマで書いてしまっては評価されませんが、「アジアの影響を受けている中での日本」という視点で日本の食文化を語ることには非常に高い価値があります。
この様に、「総合」という論理展開を使えるかどうかで、その人の視野の広さや生み出せる価値の大きさが劇的に変わってきます。
「総合」の実践方法
このような「総合」を実践できるようになるにはどうしたらよいでしょうか?
ここでは比較的簡単に実践できる基本的な実践方法を2つ紹介します。
「総合」の実践方法
①自分が考えている事柄が「部分」であり、他の可能性や、より上位の「全体」がありうることを頭の中でイメージする
②自分が考えているテーマを言語化し、その否定(排反事象)を明らかにする
言葉にすると難しいですが、やることは簡単です。
①自分が考えている事柄が「部分」であり、他の可能性や、より上位の「全体」がありうることを頭の中でイメージする
これはシンプルに、構造化の「総合」のロジックを頭の中で思い浮かべるだけです。
自分の考えていることが「部分」にすぎず、他の「部分」を構成する他の可能性があること、そして、それらを含めてより大きな「全体」となるなにかがあることを頭の中でイメージします。
私たちの脳は、イメージできることしか考えることができません。
まずは「自分の見ている世界は全体にとってほんの狭い範囲でしかない」と意識することで、「他の可能性ってどんな考え方だろう?」「より上位の『全体』って、想像もつかないけど、一体何だろう?」と自分の考えを相対化する新しい問いが生まれてきます。
こうした問いをもつことが、「総合」の論理を使いこなすための第一歩です。
②自分が考えているテーマを言語化し、その否定(排反事象)を明らかにする
続いてこちらですが、この作業は前半と後半に分かれます。
まず前半の「自分が考えているテーマを言語化し」の方ですが、これはここまでの事例の通り、「テーマ」または「問い」の形で今考えていることを言語化します。
「今日のランチはどこに食べに行こう?」(「今日のランチは外食にする」というテーマを問いの形で表現)
「日本の食文化」(「テーマ」の形の表現)
言葉にすることができたら、続いてその「否定(排反事象)」を考えます。
排反事象と聞くと途端に難しく感じるかもしれませんが、簡単に言えば「~以外」のことです。
先程の例で言えば
「今日のランチはどこに食べに行こう?」=「今日のランチは外食にする」
↓
【否定(背反事象)】
「今日のランチは外食以外にする」
「日本の食文化」
↓
【否定(背反事象)】
「日本以外の国の食文化」
この様に、「~以外」という言葉を置いてみることで
「外食以外のランチってどんなのがあるかな?」
「日本以外の国の食文化なんて考えたことがないけれど、調べてみようか」
と、新しい視点で考えることができるようになります。
以上、2つのことを意識して考えることが「総合」の論理展開を使えるようになるための方法です。
おわりに
以上、「総合」の説明をもって「構造化」という論理の型の基本的な考え方の説明を終わります。
ロジカルシンキングというテーマのもと、ロジックツリーやMECE、マトリクスといった手法を学んだことがある方にとっては、そうした手法が本質的にやろうとしていることが何なのか、それらの手法では何が足りに開くなってしまうのか、少しずつ理解が深まってきたのではないかと思います。
引き続き「言い換え」「構造化」「因果関係」の3つの論理の型についての解説を増やしていきますので、TwitterのフォローやSNSでの記事のシェアなどよろしくお願い致します。
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