ウワノキカクのキカクメモ│問題解決のための論理・ロジカルシンキング

問題解決のためのロジカルシンキングを学ぶためのブログです。

「抽象度」とは何か?│同じ意味で言い換える論理的思考の型「言い換え」と抽象度の関係

【更新】2020/05/17
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このブログでは、「論理には、『言い換え』『構造化』『因果関係』という3つの型がある!」ということを提案しています。


そこでは大まかに「どんなことができるのか?」はお伝えしていますが、「なぜこれらが論理的なつながりと言えるのか?」は扱って来ませんでした。


そこでこの記事では

・「言い換え」がなぜ論理的なつながりであるといえるのか?
・「抽象度」とは何か?

について解説していきます。

同じ意味で言い換える「言い換え」とは?

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「言い換え」とは何か?

このブログにおける「言い換え」とは、論理の「3つの型」の1つ目であり、その内容はある事象を相手の理解や関心に合わせてより具体的/抽象的な表現に言い換えることと説明されます。


ある1つの事象に対して、具体化・抽象化といった抽象度を上げ下げする操作を行うことで、メッセージの内容をより明確に、より伝わりやすい形で表現することが可能になります。


例えば、「水」という1つの事柄に対して…

例:「いろはす」などのような、飲料の水です。
【具体化】「いろはす」
【抽象化】飲料

という形で言い換えの説明を補足することで

この人は「飲む」水の話をしているのであって、植物にやったり、お風呂に入れたりする水の話をしているわけではないんだな

ということが、一切齟齬なく伝わります。


円滑なコミュニケーションのために必要不可欠な論理展開です。

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「具体と抽象の論理」

「言い換え」とは、別名「具体と抽象の論理」で、「具体」という概念と「抽象」という概念をつなげる論理展開です。


言葉の定義を確認しなくても

◆具体化する
詳しく、感覚的に理解できるように、必要な情報をつけ加えたり、固有の名詞で言い換えたりすること
 
◆抽象化する
大まかにイメージを捉えられるように、細かなことを無視して大括りの表現で言い換えること

ということは一般的な言葉の感覚としてわかるかと思います。


非常にわかりやすい概念であるがゆえに、これだけの説明でわかった気になってしまうのですが

そもそも、どうして具体化・抽象化である言葉を言い換えることができるのか?

と問われると説明が難しいのではないでしょうか。


以下、「抽象度」という概念を丁寧に説明しながら、「言い換え」がなぜ論理展開として認めうるのかを明らかにしていきます。
 

「抽象度」とは何か

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「抽象度」とは何か?

「抽象度」とは英語の"Levels of Abstraction"を日本語訳した言葉で、哲学と情報科学の交叉する存在論(Ontology)の中で使われる概念です。


哲学における存在論は、文字通り「存在とは何か?」を探求するWhatの要素が強い学問領域ですが、情報科学の文脈における存在論は「概念をどのように記述するか?」というHowの要素が強い領域


「抽象度」は後者の情報科学において重要な役割を果たす概念で、人間が言葉や意味を概念(Concept)として理解する際の情報構造(Conceptual System)(の階層性)を示す用語で、概念の構造そのものと言えます。


「抽象度」という概念が定義され、それが数学の集合や代数、グラフ理論が使える形に落とし込まれたことによって、数学的に記述可能(すなわちプログラミング可能)なものとなり、20世紀の人工知能研究を現実のものとしました。

「抽象度」という概念があるからAIが実現可能になった!

ということで、難しい学問の世界だけのものではなく、現代の生活の実践的な意味においても非常に重要な概念であると言えます。

「抽象度」の構造と「言い換え」の本質

「抽象度」は概念の構造そのものですが、ではその「構造」は実際にどういう形をしているかというと、下方向に階層性を持って広がるピラミッド型の構造をしています。


ピラミッドの頂点から下方向に分岐し続ける階層構造で、わかりやすく説明すると、次の3つのルールがあります。

最上位の概念を除くすべての概念は何らかの概念の下位に属する
 
下位に属する概念は、その上位の概念が持つ特性をすべて有する(上位の概念は、そこに連なる下位概念すべてを包摂する)
 
上位の階層に位置するほど情報量が少なく、下位に位置するほど情報量が多くなる(上位・下位で相対的な順序が決まる)

これらの構造・ルールから言えることは

すべての概念はつながっている

ということ。


どの階層のどの概念を取り上げても、上位または下位(およびその両方)に、性質を共有する別の概念が、定義上必ず存在するということです。


つまり

すべての概念は、いつでも必ず他の概念で言い換え可能である

と言えます。


これが、抽象度の上下による「言い換え」が論理的なつながりである本質的な理由です。

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「抽象度」の具体例

以上の原則を踏まえて、抽象度の具体例を見てみましょう。


テーマは「勉強中に口にしたいもの」。学生が朝、家を出る前に

今日は学校に何を持っていこうかな?

と考え、この場合は「いろはす」にしようと思い至ったとします。
 
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本人は意識していませんが、頭の中では上記の様な処理が一瞬でなされています。

今日はいろはすにしよう!

という結論に至る理由は、他の選択肢と比べていろはすが持つ特性がその時の自分にとってベストだと判断したためです。


いろはすが持つ特性とは、いろはす自身とその上位で連なるすべての概念の特性の合計のことです。

◆勉強中に口にしたいもの
・ストレス解消
・集中を促進
 
◆液体
・口にしやすい
・喉がうるおう
 
◆水
・無味無臭
・冷たい
 
◆ミネラルウォーター
・刺激がない
・味が変わらない
 
◆いろはす
・100円で買える
・入手しやすい

「勉強中に口にしたいもの」という概念が「いろはす」に言い換えられたということになります。


そして、「いろはすを選んだ理由」は上記の特性の総和であり、人に理由を説明する場合は、相手が認識していない特性をピックアップして伝えてあげることになります。

論理的思考と抽象度の濃密な関係

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「I love you」=「月が綺麗ですね」?

最後に、特に説明なく使ってきた言葉として「言い換える」ということの意味を説明します。これが分かれば「抽象度」という概念の重要なところを理解したと言えるでしょう。


「言い換える」とは文字通り、もともとの言葉に換わって他の言葉を用いることですが、どういうときに言い換えが許される/機能するのでしょうか


例えば、こんな逸話を耳にしたことはないでしょうか。

英語講師として学生を指導していた夏目疎石。

「I love you」を「我、君を愛す」と日本語訳した教え子に対し、「日本人はそんなことは言わない。『月が綺麗ですね』とでも訳す方がよい」と指摘した。

この逸話は出典が不明で真偽の程は定かではないようですが、いずれにせよ

I love you = 月が綺麗ですね

という言い換えが行われており、しかもそれが良い翻訳の例として支持されていることには変わりありません。


冷静になって考えれば、「I love you」と「月が綺麗ですね」が直接的に表現している意味が違うことは明らかです。


一方は相手への好意の告白であり、もう一方は月の状態への感想。明らかに違うわけです。


それがなぜ翻訳(=言い換え)として成立しているのでしょうか?


それは「月が綺麗ですね」という言葉から

①二人の男女が
②月が出るような遅い時間に
③(おそらく)2人きりで
④月を見ながら話していて
⑤(そしておそらく)「月が綺麗ですね」と言われた相手は「そうですね」と同意してくれそう

という具体的なシーンを頭の中で想起し、その文脈の中で「月が綺麗ですね」を解釈しているからです。

説明されていないのに情報を追加している!

というのが、ここで起こっていることです。


そして、追加情報によって勝手に作り上げられたそのイメージの枠内に限って、「月が綺麗ですね」という言葉が「I love you」と同じ意味になり得るというのが、直接的に違うことを表現している言葉が言い換え可能になっていることの真相です。

抽象度と論理的思考の関係

さて、ここで「抽象度」のことを考えてみましょう。


「I love you」と「月が綺麗ですね」のどちらが抽象度の高い表現でしょうか?


抽象度が高いというのは情報量が少ないということですので、上記の様に①~⑤の追加情報を必要とする「月が綺麗ですね」は具体的で抽象度の低い表現で、「I love you」が抽象度の高い表現になります。


つまり、ここで行われている「言い換え」は

【抽象】I love you
 ↓
【具体】月が綺麗ですね

という「具体化」の言い換えだということができます。


この一連の分析からわかるように

◆「言い換え」で実際に置き換えられる2つの言葉は、「直接的に表現している事柄(reference)」は異なる
 
◆しかし「その言葉で伝えたいこと(sense)」は同じ
 
◆本当に同じかどうかは具体的な文脈に照らして判断する

「言い換え」にはこうした特徴があるわけです。


ここでポイントは

「言い換え」という論理のルールは確かに存在するが、「本当に言い換え可能か?」にはその人の判断(=思考)の余地がある!

ということ。


「言い換え」という論理の型は、抽象度の概念によって確かに説明されます。


一方、「Aという言葉とBという言葉を言い換えてよいか?」の判断にはその人の思考力が問われるため、「言い換え」の論理に対する思考力の差として現れるわけです。

ルールを知っていることと使えることは違う

というところに、我々と漱石先生との間に大きなギャップがあるわけです。


抽象度による「言い換え」の論理を知っていることは、上手に「言い換え」ができることではありませんので、仕組みを理解した方はぜひ一緒に論理的思考力をトレーニングしていきましょう。
 

推薦図書

「抽象度」という概念をもう少し踏み込んで理解したい方には以下の本がおすすめです。

「言い換え」すなわち具体と抽象の論理そのものを解説してくれている本と言っても過言ではありません。
 

おわりに

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「言い換え」という論理の型は非常にシンプルで、一度聞けば「ああ、そういうの、あるよね」とすでに知っていたことのようにさえ感じます。


しかし、「抽象度」という概念を踏まえて理解することで、実践力、すなわち論理的思考力には開きがでることがわかるのではないでしょうか。


本質から正しく理解し、自身の論理的思考力を高めていきましょう。


引き続き「言い換え」「構造化」「因果関係」の3つの論理の型についての解説を増やしていきますので、TwitterのフォローやSNSでの記事のシェアなどよろしくお願い致します。

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