ロジカルシンキングを学び、ある程度実践できる様になってきた場合に直面するのが、「学んだ通りやっているはずなのになかなかうまくいかない」という壁です。
そこで今回は
ロジカルシンキングをきちんと実践しているはずなのに失敗に終わる理由は何なのか?
について、論理的な思考にはレベル(階層)があるという観点からお話します。
記事案内
テーマ:ロジカルシンキングが失敗する理由
内容:論理の3階層
対象:入門者・初級者向け

論理の3階層ー論理的思考力を高めるための視点
ロジカルシンキングがうまくいかない人の特徴
ロジカルシンキングの入門者・初学者が陥りがちな失敗体験として
自分では完璧に考え抜いたと思っていたのに…
これはロジカルシンキングのさまざまな手法を学習し、ある程度の訓練を繰り返したことで必要な手続きを自分の力でこなすことができるようになった頃に生じる問題です。
自分なりに論理的に考え抜いたと思っていても、
・他の人との議論の中でいとも簡単に論破されてしまう
・自分のアイデアで企画を進めても思ったように進まない
・「もっとよく考えろ」と一蹴される
・いつまで経っても自分の思考に自信が持てない
といった状況に陥ってしまい、なかなか初級者のレベルを抜け出せなくなってしまいます。
実は、これらはすべて「自分の見える範囲でしか考えていない」ということに根本問題があります。
いかに論理的に考えたつもりであっても、実際に役に立つ考察やアイデアを練り上げるまでには至らなければ、実務で活躍することはできません。
この記事では、こうした壁を突破するための重要な視点をご紹介します。
論理には3つのレベルがある(論理の3階層)
ロジカルシンキングを実践し、初級者の壁を突破する上で重要な視点。
それは、論理には3つのレベルがあるという視点です。
ここではこのことを論理の3階層と呼んでいます。
論理の3階層
レベル1 自分にとって合理的
レベル2 相手にとっても合理的
レベル3 みんなにとって合理的
「自分<相手<みんな」という順番で拡大する論理のスコープを整理した考え方で、その人が論理的思考をどのレベルで実践しているかによって、実務的な能力や発揮されるリーダーシップの高さを評価することができます。
そもそも論理的思考とはある前提からある結論を導き出す思考過程が十分に筋道だっていることを指します。
この「前提」を思考者がどこまでスコープを拡張して捉えているかによって、思考成果の説得力が大きく異なります。
自分だけの前提で考えているのか、自分が持っていない相手の前提も想定して考えているのか、はたまた直接的な関わりのない第三者まで含めて考えることができているのか。
スコープが広ければ広いほど思考成果の説得力が高まります。
そして当然、思考の難易度も高まります。
以下、各階層の内容を確認しながら自身の考え方の癖を分析していただければと思います。
論理の3階層 解説
レベル1 自分にとって合理的
論理の3つの階層、レベル1は自分にとって合理的という状況です。
ロジカルシンキングを実践する際、前提として自分が持っている知識や情報、立場、目的など、自分視点において合理的であるということ。
「自分なりに考えたのにうまくいかない」という人は、そもそも思考のスコープがこのレベルで留まっている可能性が高いので注意しましょう。
例
▼入試問題
「解答に必要なすべての前提は問題中に与えられている」というルールに基づいて答えるもの。
必要な前提はすべて自分視点で把握できることが、試験としての公平性を担保しています。
▼独りよがりの発想
・職場の懇親会のお店を決めるときに、他の参加者のことを考えず自分の好きな激辛料理のお店を選ぶ
・会議日程を決める際、参加可能なすべての日時ではなく、自分が行動しやすい日時に絞って候補を出す
繰り返しますが、「論理的に考える」とはある前提からある結論を導く過程が十分に合理的であるように考えることです。
一般に、考慮すべき前提の数が少なければ少ないほど、思考の自由度が上がることによって思考は楽になります。
仮に「そもそも前提から結論への過程が合理的でない」という非論理的な状況をレベル0といえば、レベル0の状態からレベル1の思考ができるようになるだけでも大きな前進です。
そこから更に、実務的に高い能力を発揮するには以降のレベル2やレベル3の論理が必要になります。
レベル2 相手にとっても合理的
レベル2の論理とは、コミュニケーションする相手の前提(知識や情報、立場、目的など)においても合理的であるという相手視点を含んだ論理展開のことを指します。
「相手の立場に立って考える」とはまさにレベル2の論理を扱うことですね。
レベル1との違いは、ここでいう「相手」は「自分の持っていない前提を持っている存在」であるということです。
例えば、自分がabcdeという5つの前提を持っており、相手がcdefgという5つの前提を持っていたとします。
このとき、自分が持っている前提abcdeだけで結論を導き出すのがレベル1の論理、相手が持っている前提をすべて考慮しabcdefgの7つの前提から結論を導き出すのがレベル2の論理です。
議論を始める前は互いがどのような前提を持っているかは不明のため、abcdeのみから結論を出す自分とcdefgのみから結論を出す相手の間では意見の相違が見られます。
ところが、話をするうちに互いに違った視点(前提)から考えていることが明確になり、それらすべての視点を考慮した新しいアイデアを見つけ出すことに成功します。
例
▼議論の結果、双方が納得できるアイデアが見つかる
前提 abcde → 結論 A(レベル1)
前提 cdefg → 結論 B
↓
前提 abcdef → 結論 C(レベル2)
自分だけの立場では結論Aが合理的であり、相手だけの立場では結論Bが合理的になる。
このようなとき、双方の前提を合わせることで結論Cという新しいアイデアが見つかれば、それがレベル2の論理です。
なお、レベル2で「相手にとって『も』」と言っているのは、相手の前提を考慮することと自分の前提を手放すことは必ずしも同じではないということを主張しています。
自分が持っている前提を手放し、100%相手に同意することがレベル2の論理ではありません。
自分と相手の前提や論理の相違に気づき、創造的な議論によって新しい結論を発見することがレベル2の論理です。
ロジックを構築する能力はもちろん、相手の前提を推測し明らかにする能力や議論を創造的・生産的なものにするファシリテーションのスキルも必要になります。
レベル3 みんなにとって合理的
最後に、レベル3「みんなにとって合理的」とは、その場にいない第三者の視点(知識や情報、立場、目的など)においても合理的であることを指します。
先程の例に則れば、自分と相手ではabcdefgの7つの前提しかありませんでしたので、それ以外の前提、例えばxやyやzを足しても合理的であるよう状態がレベル3の論理ということです。
より具体的には、
「いまの自分とは違う立場の人はどう考えるだろう?」
「自分と異なる価値観の人はどう分析するだろうか?」
と、積極的に自分の外にさまざまな前提を探し、想像するような態度がレベル3の論理をつくる考え方です、
例
▼自分と異なる意見の合理的な論拠を想定し、反論を考える
・ある論点について、自分が賛成の場合、反対派の論拠を想定しながら、それらを包含する新しい結論を探る
▼自分と異なる価値観の人なら同じ状況でどのように考えるかを想像する
・自分とは生まれや育ちが大きく異なる人を想像し、その人ならどのように考えるかを検討する
ここで想定する第三者の範囲は無限に拡張することができます。
「自分と異なる価値観の人」といっても、同じ日本の中で考えるのと行ったこともない世界の誰かを想定するのとでは、論理の内容も難易度も大きく変わってきます。
レベル3と一口に言っても、その中には難易度の違いが大きく現れてくるのです。
論理的に考える能力が高い人は、常にレベル3まで視点を高めて自分の論拠の妥当性や普遍性を検討しているということになります。
論理の3階層 実践
以上、論理の3階層の詳しい内容を見てきました。
「自分<相手<みんな」と、立論の中に含まれる前提の範囲が広がるほどに、思考が現実を動かす程度が強まっていきますので、ぜひ「より高いレベルから見るとどのようなことが考えられるか?」と頭の中に置きながらロジカルシンキングを実践していきましょう。
今回学んだ論理の3階層を日々の思考に落とし込んでいくには、次の2つのことを意識してみましょう。
論理の3階層の実践
▼POINT1
「自分はいまどのレベルで考えているか」を論理の3階層に当てはめて考える
▼POINT2
論理的思考の原理を使う
1つめのポイントは、「自分はいまどのレベルで考えているか」を論理の3階層に当てはめて考えることです。
「十分に考え抜いた!」と思ったとき、チェックポイントとして
「レベル1の論理にとどまっていないか?1つ上のレベルで考えてみよう」
「レベル2や3を考えるには、どのような関係者を想定したらよいだろうか?」
と視点を広げる問いを持ち、新たな視点から批判的に自分のアイデアを検証することが有効です。
2つめのポイントは論理的思考の原理を使うということです。
◇抽象度(概念の階層性)の原理
・MECE
・So What? / Why So?
◇因果関係の原理
・並行仮定
ここでは解説しませんが、これら論理的思考の中心的な原理にそって考えを深めることで、自然と思考のレベルや精度が高まっていきます。
おわりに
今回は、入門者・初学者を対象に論理の3つの階層について解説しました。
特に初めのうちは、自分の視点から論理を構築することに集中してしまい、形は整っているものの実際にはいろいろな人からの批判にさらされてしまう、という経験が多くなってきます。
意識的にレベル2や3の視点を取り入れることによって、論理的な思考力の下地部分が出来上がってきますので、基礎トレーニングの視点として忘れないようにしましょう。
wk
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