「論理的思考・問題解決基礎講座」では、「因果関係の思考」の考え方や具体的な実践方法を紹介してきました。
今回の記事では、この「因果関係の思考」をより実践的に学び、問題解決の手段として使えるようになりたいと思う方に向けて、まずは現状分析の手法である「現状ツリー(CRT)」の考え方と実践方法をご紹介します。
現状ツリー(CRT)とは
問題への対症療法は時間の無駄
仕事であれ日々の暮らしであれ、望む姿に近づいて行こうと思えば、まずは目の前の問題を解決することに取り組みます。「問題を解決しようとしてはいけない?│優秀な人が陥りがちな落とし穴」でも記載したとおり、その時に何も考えずに「これだ!」と思った問題の解決に取り組んだとしても、その問題の原因が残っている限りは手を変え品を変え別の形で問題が現れ続け、いつまで経っても望ましい状態に近づくことはできません。それがいわゆる「対症療法」の状態です。
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対症療法はゴールに近づかないばかりか、時間とエネルギーを無駄にすることにつながります。貴重な時間を有効に活用し、最短で成果をあげるためにも、まずは現在どのようなシステムで自分の周りの問題が起きているのかを把握し、本質的な根本問題を見定めた上で取り組むことが必要です。その時に有効な現状分析の手法が「現状ツリー」です。
「現状ツリー」は『ザ・ゴール』の著者であるエリヤフ・ゴールドラット博士とその側近であったリサ・シェインコフ氏を中心に開発された「思考プロセス(Thinking Process)」という体系に位置づけられる現状分析の手法です。こちらについては『ザ・ゴール2』を読んで頂くと、ビジネスの現場で使われるケースを物語から学ぶことができますので、興味のある方は読んでみてもいいかもしれません。
現状ツリー(CRT)とは
「現状ツリー」は"Current Reality Tree"の日本語訳で、略して「CRT」とも言います。現在起こっている複数の出来事を因果関係でつなぎ合わせることで、システム全体を整理することができます。
よく「現状問題ツリー」「現状問題構造ツリー」という日本語訳に直されているものを見ますが、あくまで現在起こっている出来事を整理するためのものであり、「問題」だけを見るものではありませんので「現状ツリー」という訳語が適切です。
現状ツリーを作るメリット
現状ツリーをつくるメリットは、大きく分けて以下の3つです。
メリット① 無駄な時間を極限まで減らせる
すでに書いた通り、対症療法は時間の無駄です。その時はうまくいったように感じても、本質的に大切なところは何も変わっていませんので、同じ構造の中で努力を無駄に続けるだけになります。現状ツリーを作ることで手を打つべき根本問題が見つけられるため、無駄な対症療法に陥ることを回避し、意味のあることだけに時間を使うことができます。
メリット② 最短距離で成果が出せる
現状ツリーで根本問題が見つかると、それだけに集中することができます。他のことは一切やらなくて良いことがわかれば、本質的な一点に努力を集中させられます。そうすれば当然、より早く成果が出ます。あれこれ手を出すよりも、意味のあること1つに全力投球できれば、もちろん楽に結果を出すことになります。
メリット③ みんなで重要なことに合意できる
現状ツリーは合意形成にも便利なツールです。例えば会社の場合、部署が違えば同じ組織でも全く異なる利害関係で動いているのも珍しいことではありません。そうした場合、組織の壁を超えて重要なことにみんなが納得するのは至難の業。しかし、現状ツリーがあれば、部署同士の繋がりが1つのシステムとして明らかになるので、みんなのつながりを実感しながら納得して合意形成することができます。
また、現状ツリーについて学べる本で特におすすめなのは以下の2冊です。自分にあうと思ったほうを手にとっていただくことをおすすめします。
全体最適の問題解決入門―「木を見て森も見る」思考プロセスを身につけよう!
- 作者: 岸良裕司,きしらまゆこ
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2008/08/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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頭のいい人の思考プロセス―すぐに使える、図と論理の問題解決スキル
- 作者: リサ・J.シェインコフ,Lisa J. Scheinkopf,田村優子
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2004/06
- メディア: 単行本
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✓ 現状ツリーは対症療法で時間を無駄にすることなく、本質的な問題に時間を集中させられる現状分析ツールである
✓ 現状ツリーは「時間の無駄をなくす」「最短距離で成果を出す」「みんなで意思決定する」ことに役立つパワフルな思考法である
現状ツリーで問題の構造を分析する
現状ツリーの作り方
現状ツリーの作り方をまとめると以下のようになります。
◎現状ツリーの作り方
- 分析したいテーマと目的を決める
- 現在生じている問題や解決したい困りごとを10個程度リストアップする
- 因果関係で問題をつなぐ
- 問題・事象を書き加えてすべての問題をつなぐ
- 読み上げて確認し、必要に応じて修正を加えて完成させる
- 設定した目的に対して、ツリーをみながら対策を考える
さっそく実践例を見てみましょう。
実践例
手順に沿って1つずつ進めていきます。まずはテーマを決め、何のためにこの分析をするのか目的を確認しましょう。
1.分析したいテーマと目的を決める
テーマ:仕事
目的:なんだか仕事がうまくいっていない感じがするので、今後どうすべきか考えたい
次に、テーマ・目的を意識しながらそれに関連する問題・困りごとを思いつくままに出していきます。数は10個前後がおすすめです。それくらい書き出すことで、分析に必要な重要な事柄がほぼ出尽くすはずです。もし10個出してもなお重要なものが思いつくのであれば、それ以上出してももちろんOKです。
2.現在生じている問題や解決したい困りごとを10個程度リストアップする
・とにかく忙しい
・スキルアップのための時間が足りない
・重要案件に十分な時間が割けない
・売上・利益の目標が達成できていない
・準備の時間が十分に取れない
・コンペの勝率が悪い
・仕事の抜け漏れ・ミスが多い
・仕事の実力に不安がある
・いい企画が作れない
・仕事のやる気が出ない
上記10個の問題を、因果関係でつないでいきます。まずは手元にある10個だけでつないでみましょう。
3.因果関係で問題をつなぐ
10個の問題をすべてつなぐことができました
一回ですべてを繋げる場合もありますし、2~3のまとまりに分かれる場合もあります。今回は10個すべてをつなぐことができましたが、それでも全体をしっかりと見直し「こことここはもっとつながりそうだ」というところを見つけてみましょう。
4.問題・事象を書き加えてすべての問題をつなぐ
2つ事象を付け加え、線をつなぎました
たくさんの問題が循環しながら繰り返されています。これを1つずつ読み上げながら内容があっているかを確認します。
5.読み上げて確認し、必要に応じて修正を加えて完成させる
一部表現を改めました
全体像を見返すことで、「忙しいせいで大切なことができない」のではなく自分の仕事の仕方、優先順位付けの問題であることに気づき、一部の表現をより適切な形に言い換えました。これにより、現在起こっている問題の全体像が1つのシステムとして見えてきました。最後に、このわかったことをしかして今後の対策を考えます。
6.設定した目的に対して、ツリーをみながら対策を考える
対策1:1つひとつの案件をもっと丁寧にやる
対策2:スキルアップの時間をちゃんとつくる
まず、いまは目標を達成するために数多くの案件を同時にこなしていますが、それが1つひとつの仕事の精度を下げています。より少ないものに集中することで、コンペの勝率を上げていくことを目指します。更に、しっかりとスキルアップの時間をつくることによって実力を高め、よりよい仕事ができるようにしていく。これらによって仕事に良い循環が生まれるようにしていくことに決めました。
✓ 現状ツリーをつくることで、問題の全体像が1つのシステムとして理解できる
✓ システムがわかれば何に集中すればいいかが決められる
おわりに
現状ツリーが作れるようになると、様々な問題同士のつながりがはっきりと分かるようになり、いま自分が何に集中すべきかを的確に考えられるようになります。今回は個人の問題を扱いましたが、組織のより大きなシステムを分析することも可能です。ぜひ訓練を進めていきましょう。
また、現状ツリーの考え方・実践方法をより深く理解するための本は以下の2つです。自分にあった方を教科書として読み進めてみてください。
全体最適の問題解決入門―「木を見て森も見る」思考プロセスを身につけよう!
- 作者: 岸良裕司,きしらまゆこ
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
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- 作者: リサ・J.シェインコフ,Lisa J. Scheinkopf,田村優子
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