ウワノキカクのキカクメモ│問題解決のための論理・ロジカルシンキング

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前提条件とロジックを自分の頭で整理する力が思考力であり理解力│箕輪氏『死ぬカス』に学ぶ

前提条件とロジックを自分の頭で整理する力が思考力であり理解力│箕輪氏『死ぬカス』に学ぶ

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20代は嫌なことは断るべきか

話の前提としてぜひ読んで頂きたいのが、「20代のいい断り方」というテーマで箕輪厚介氏をインタビューした以下の記事です。

記事の詳細は読んでいただくとして、取り上げたいのは同氏の著書『死ぬこと以外かすり傷』

「お前がやる意味ないと思っているのならここが別れ道だ。意味がないことを知りながら上司のために仕事をすることは真面目でも何でもない。むしろ不真面目だ。代案を考えて『意味ない』と言ってこい。疑問に思ったことを飲み込んで、言われた通りに仕事する。そんな無難な道を3回歩いたら二度とこっちに戻ってこれなくなるぞ」(『死ぬこと以外かすり傷』P41より引用)

とあるように意味が無いと思うことは代案を持って「意味ない」と言え派の箕輪氏が

・僕だって、20代の頃は仕事を断ったことなんてないです。
・そもそも実力がないうちは、「断る/断らない」なんて次元にいないんです。
・何もできないくせに偉そうなことだけ言っても痛い奴じゃないですか。

「実力のない20代が仕事を断るなんて痛いだけ」という趣旨のことをインタビューの中では言っております。


この記事について、少なくとも私の周りは好意的なコメントが多く、私自身も記事全体の内容を支持する立場です。しかし一方で

話の論理を正しく追えないと、また誤解する人が出るだろうなあ

と思いました。実際、Twitterでは

・これはただの二重規範ではないか

といった批判的な感想もあり、これだけのまとまったインタビューでも真意を伝えることは簡単ではないのだなあと改めて感じました。
 

箕輪氏の主張は矛盾・ダブルスタンダードか?「死ぬカス」のロジック

果たして箕輪氏の主張は矛盾もしくはダブルスタンダードでしょうか


このブログでは常々「矛盾や対立があるときは本質を探そう!」ということを言っているわけですが、まさにここでもしっかりとメッセージの本質的なところを考えることが大切です。

確かに、上記で切り取って取り上げたところだけを見れば、「断れ⇔断るな」の矛盾・ダブルスタンダードに見えるのかもしれませんが、きちんと日本語を読めば明確に前提条件を示しながら論理的に語っていることが明らかです。まず「断れ」側のロジックを整理すると以下のようになります。

『死ぬこと以外かすり傷』の主張のロジック
【前提条件】自分が「やる意味がない」と思っている
【取るべき行動】代案を考えて「意味がない」と言う
【その行動を取る本質的な理由】意味がないことを知りながら他人のために仕事をすることは真面目ではなく、むしろ不真面目である
 ↓
【期待される結果】「こっち側(=主体的に人生を切り開く生き方)」に戻ることができる

見るべきポイントが2つあります。


1つ目は、この部分だけを見る限り「断れ」とは言っていないこと。代案を考えて「意味がない」と言うことは断ることではなく、むしろ議論を仕掛けることと言った方が良いのではないでしょうか。仕事の指示を受け身に拒絶するのではなく「主体的に働きかけよう」という趣旨に取るべきだと思います。


2つ目のポイントは前提条件をしっかり理解しようということで、こちらのほうが重要です。もとの文章には

お前がやる意味ないと思っているのならここが別れ道だ

とあります。つまり「代案を考えて「意味がない」と言う」は「こんなの意味ない!」と明確に自分の意志や主張がある場合にのみ有効だということ。逆に言えば、自分の態度が明確に定まっていないときにそうした行動を取ることを箕輪氏は一切想定していません。


上記2点が論理的に文章が読めない人の誤読ポイントだと思います。

①「主体的に働きかけよう」という趣旨なのに、「断れ」だと誤読する
②「自分が『やる意味がない』と思っているなら」と前提を区切っているのに、「どんなときでも」と誤読する

こうした誤読があると「箕輪氏の主張はダブルスタンダードだ」という結論に繋がりかねません。もし、他人の主張に矛盾を感じたならば

自分の理解が間違っているのではないか?

と謙虚に考え、まずは根拠を確認し、ロジックを丁寧に理解することから始めるべきです。
 

箕輪氏は「断るな」と言っているのか

『死ぬカス』の主張が断れではないことを確認しましたが、では、今回のインタビュー記事の主張は「断るな」なのでしょうか。

僕だって、20代の頃は仕事を断ったことなんてないです。自分の立場と実力を踏まえて、電話番したり、パワポで資料作ったり、すごく苦手な請求書の処理や経費清算だって先輩たちの分を全部代わりにやったりしてました。
 
そもそも実力がないうちは、「断る/断らない」なんて次元にいないんです。
 
僕やホリエモンが「やりたいことをやれ」みたいな論調をつくっていて、それはそれで真実ではあるんですけど、最初は「やるべきこと」をやるしかない。まあホリエモンみたいに最初から実力があれば、関係ないですが、僕は何もできなかったから。

まず、この部分のロジックを整理すると

インタビュー記事のロジック①
【前提条件】実力がないうちは
【取るべき行動】仕事を断らず、「やるべきこと」をやる
【その行動を取る本質的な理由】そもそも実力がないうちは、「断る/断らない」なんて次元にいない

この行動によって結果的に何を起こそうとしているかはこの部分だけからは明確ではありませんが、「実力がないうちは『やるべきこと』をやろう」という内容であることは明確です。


この部分を見ると「断るな」という主張をしていますが、前提条件「実力がないうちは」を無視してはいけません。メディアでは前提条件を切り落として本人の主張を取り上げることが多々ありますが、そうした情報に惑わされずに

本人がどのような前提条件を語っているのか?

をしっかりとチェックすることが大切です。
 

「前提条件なしの主張」を見つけよう

ここまでの整理で「実力がないうちは『やるべきこと』をやる」「実力がついたら、おかしいと思ったら代案を考えて『意味がない』と言う」という箕輪氏の主張がクリアになってきましたが、実力の有無に関わらず大切にすべきことを語った部分があります。

石野卓球さん(@TakkyuIshino)の言葉に、「自分に嘘をつくぐらいなら他人に嘘をつけ」っていうのがあって。僕、超好きなんですよ。それ真実だなと思って。
 
クソみたいな仕事が来て、でも自分が新人で、今はこの会社である程度信頼されなきゃいけない時期だと判断した時に、「めっちゃ良い企画ですね!僕にやらせてください!」って嘘はアリだと思うんです。その矛盾は、若い時はしょうがない。
 
でも、それを自分の本心だと思ったら終わり。人の意見に合わせてると、それがいつの間にか本当に自分の意見のようになって、結果として自分がいなくなっちゃう。「死んだ目のサラリーマン」って言われる人たちは、自分の心の声がなくなっちゃってるんですよね。
 
だから、「クソ企画だわ」って本音を自分にはちゃんと言うこと。そのうち実力が付いて影響力が増せば、「その企画クソつまんないですよ」って言ってもおかしくない立場になれます。

自分の本音は絶対に守る

というのは、実力の有無にかかわらず常に守るべきポリシーであると語っています。


大切なのは、この主張には前提条件がなく、いつでもそうであるべきだと言っているということ。人の主張には

・前提条件ありの主張
・前提条件なしの主張

の2種類があり、どんなときでも後者の前提条件なしの主張がその人が最も大事にしている価値観です。つまり、箕輪氏からすれば、仕事を断るか断らないかは自分に嘘をついてはいけないということに比べればどっちでもいいことです。

前提条件なしのメッセージを一番大切にしよう!

というのが、人の話を理解するときの最も重要なポイントです。
 

箕輪氏の最も本質的なメッセージ

「断る⇔断らない」の対立よりも重要な視点が明らかになりましたが、では、このインタビューで箕輪氏が最も伝えたかったことは何でしょうか。


続く文章では以下のように述べています。

結局、「断る/断らない」に正解はないんですよ。どっちでもいいんです。自分の頭で考えて、自分の中で筋を通せばいいだけ。「これは俺が断る/断らないと決めた」ことが大事なんです。
 
つまりは「断らない」っていうことにすらも「企みを持つ」ってこと。

箕輪氏にとっては「自分の本音を守る=自分の企みを持つ」ということであり、そのためには

・ロールモデルを3人ぐらい持つ
・具体的な目標を3つ持って紙に書く

といったやるべきことも示しています。


さらに

「これって何でダメなんだっけ?」っていうのはその都度考えた方がいい。ルールにただ従ってるだけの人じゃ、価値は生み出しにくいんですよ。なぜなら価値って希少性だから
 
ダイヤモンドが高価なのはキレイだからじゃなくて数が少ないからで、同じように、大多数の空気や「こうすべき」に惑わされず、自分の頭で考えてオリジナルな行動をすることに価値が生まれるんだと思います。

こうした内容を総合すると、箕輪氏の本質的なメッセージのロジックは

インタビュー記事のロジック②
【取るべき行動】「ロールモデルを3人ぐらい持つ」「具体的な目標を3つ持って紙に書く」をすることで、自分の本音を守り、自分の企みを持ち、オリジナルな行動をする
【その行動を取る本質的な理由】価値とは希少性である
 ↓
【期待される結果】価値が生まれる

これがこのインタビューで語った最も重要なメッセージなのではないかと思います。
 

論理的な思考力・理解力を高めるために

さて、ここまで読んでくださった方に今一度考えて頂きたいのは、「論理的な思考力や理解力を高める上で大切なことは何だろう?」ということです。


今回の記事では以下のことを丁寧に行ってきました。

論理的な思考力や理解力を高める上で大切なこと

  1. 主張の前提条件を明確にする
  2. 本質的な理由を明確にする
  3. 因果関係のロジックを明確にする
  4. 原典を読む

いずれも慣れが必要ですが、しっかりと日々心がけることでできることですので、もし有効だと思われた方は以下のリンクも参考にしてみてください。これらの考え方の背景にある、より本質的な視点から思考法を解説しています。

推薦図書

今回のインタビュー内容の理解を更に深めるためには、こちらの本もおすすめです。『マンガ 死ぬこと以外かすり傷』が遂に出版されました。箕輪氏の人生哲学が詰まった一冊を、しっかりと自分の頭で前提条件を考えながら楽しく読んでいきましょう。

もちろん、原作の『死ぬこと以外かすり傷』もおすすめです。

おわりに

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「人の話をちゃんと聞こう!」と言ったりしますが、基本的な思考力や理解力がなければどれだけ耳を傾けたところでわかるようにはなりません。


思考力の必要性が高まる昨今、自身の思考力を鍛えるためには以下の記事もぜひ参考にしてみてください。

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