「抽象度」という概念が思考活動において非常に重要であることをご存知な方は少なくないかと思います。
特に、抽象度を上げる思考の実践方法やメリットについてはよく取り上げられますが、反対に、抽象度を下げ、具体性を高める方向への思考にも様々なメリットがあります。
そこで今回は
・「抽象度の思考」実践方法10のアイデア(具体化と抽象化の論理的思考の使い方)
について解説します。
抽象度の思考(具体化と抽象化の論理的思考)
実践方法10のアイデア
抽象化(=抽象度を上げる)や具体化(=抽象度を下げる)というのは、論理的な思考法の基本原理の1つとも言える重要な操作です。
そうした思考展開を、現実の問題解決の中でうまく使用するための基本理解や具体的な実践アイデアを10個にまとめて解説します。
「抽象度の思考」実践方法10のアイデア(具体化と抽象化の論理的思考の使い方)
- 具体的な表現の方が人の心を動かす力が強い
- 具体化と抽象化を同時に使うと誤解なく、正しく伝わる
- 大量の暗記をするときも具体と抽象の両方を意識しよう
- 戦略は抽象的に、アイデアは具体的に
- チームにおける協働のコツはそれぞれが担う抽象度をズラすこと
- 具体化と抽象化の同時使用は価値体系を創ること
- 悩んで立ち止まったら抽象度を上げて考えよう
- 「学ぶ」とは具体的な経験から抽象的な本質に気づくこと
- 見抜いた本質は具体的な実践に落とし込んで使い倒す
- 本質を使って仮説を作り、行動を仕組みのレベルから変える
なお、「抽象度」という概念について詳しく知りたい方は、以下の参考記事を御覧ください。
1.具体的な表現の方が人の心を動かす力が強い
抽象度を扱うとどうしても抽象化のメリットが取り上げられることが多いですが、現実を動かし、望んだ状態をつくりあげる原動力になるのは具体化の方です。
同じ内容でも抽象度を上げ下げすることで別の言葉で言い換えることができるというのは「言い換え」という論理の型で説明してきましたが、同じ内容であれば具体的な表現の方が人の心を動かす力が強いです。
例
定期試験直前、連日徹夜で勉強をしている友人に対して、「万全な体調で試験に臨むことが大切だ」と伝える場合
△ 「万全な体調で試験に臨むことが大切だよ!」
↓ 具体化
◎ 「試験中に眠気で頭が働かなくなったら、解ける問題も解けなくなって後悔するかもよ?」
伝えたいことをそのまま言葉にするよりも、相手が具体的なイメージを持てる表現をする方がメッセージは伝わりやすくなります。
2.具体化と抽象化を同時に使うと誤解なく、正しく伝わる
具体的な表現にせよ、抽象的な表現にせよ、それ単体では誤解を招くおそれがあります。
例
友人を心配して「試験中に眠気で頭が働かなくなったら、解ける問題も解けなくなって後悔するかもよ?」と言ったら、「本気になって勉強してるのに、余計なこと言うなよ!」と怒らせてしまった。
この様な誤解を避けるためには、言いたいことは具体と抽象の両方に言い換えて伝えることが有効です。
例
「万全な体調で試験に臨むことが大切だ」と伝える上で、友人を心から心配していることを誤解なく伝えるために…
「試験中に眠気で頭が働かなくなったら、解ける問題も解けなくなって後悔するかもよ?」【具体化】
↓
「これまでの努力をしっかりと結果に結びつけるためにも」【抽象化】
↓
「万全な体調で試験に臨むことが大切なんじゃないかな」
この様に、元の伝えたかったことについて、具体化した表現、抽象化した表現とセットで伝えると、相手に誤解なく伝えたいことを伝えることができます。
3.大量の暗記をするときも具体と抽象の両方を意識しよう
相手に伝えるときに力を発揮する「言い換え」の論理展開ですが、多くの情報を暗記する場合にも役立ちます。
例
「environment」「circumstance」「surrounding」という3単語「環境」という括りで暗記する
【抽象】環境
【具体】environment / circumstance / surrounding
昨日は「環境」と訳せる単語を3つ覚えた!
大量の情報を記憶する必要があるときは、1つひとつを別々に覚えるのではなく、まずは意味のある大きな括りをつくり(=抽象化)、それに紐付ける形で個々の情報を記憶する(=具体化)ことで、情報同士のつながりが生まれ、記憶できる確率が飛躍的に向上します。
4.戦略は抽象的に、アイデアは具体的に
どんなことでも目的・目標の達成のためには戦略と、それを実現するためのアイデアが必要です。
目的・目標の達成のための戦略とアイデアの関係性は
戦略【抽象】
↓
アイデア【具体】
という具体と抽象のつながりです。
例えば、「3ヶ月で5kgのダイエットをする」という目標があった場合に
▼ 戦略【抽象】
はじめの1ヶ月は運動習慣を身につけることに専念し、残りの2ヶ月で食事制限を取り入れて5kg痩せる
↓
▼ アイデア【具体】
✓ 徐々に距離を伸ばしながら毎日ジョギングする
✓ 1ヶ月間だけパーソナルトレーニングに通う
✓ 制限食の食材が家に定期的に届くように宅配サービスを使う
この様に、戦略はゴールに辿り着くまでの大まかなストーリー、アイデアは「どうやって実現するか?」の具体的な手段と整理しておくと、目標達成のための戦略的思考力が身につきます。
5.チームにおける協働のコツはそれぞれが担う抽象度をズラすこと
ビジネスに限らず、あらゆる組織やチームで上手に協働するためにはそれぞれが担う抽象度をズラすという発想が有効です。
「マイクロマネジメント」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
これは「上司が部下の仕事ぶりに対して、微に入り細に入り指導・干渉すること」という意味で、一般的には上司のマネジメントスタイルに対する批判的な言葉として用いられます。
こうしたことが起こってしまう理由は、上司が部下と同じ抽象度で仕事を捉えているというところに課題があります。
△ マイクロマネジメントに陥りがちな上司
部下の仕事状況に課題を感じた際、「その状況、自分ならこうする」という具体的な対処方法を考えてしまう
→上司と部下が同じ抽象度で考えてしまっている
◎ 理想的な上司
部下の仕事状況に課題を感じた際、「どうしてそうなってしまったのだろう?」「部下の特性を活かした仕事のやらせ方は何だろうか?」と抽象度の高い仕組みレベルで考える
→部下に対して上司が高い抽象度で考えている
同じ抽象度における最適解は1つだが、抽象度をズラせばそれぞれに異なる最適解が生まれるというのが重要なポイントです。
わかりやすく上司と部下の例を出しましたが
□ ディレクターとプランナー
□ 編集者と作家
□ 選手と監督
□ 学校長とPTA会長
など、協働が必要なあらゆるステークホルダーには抽象度の異なる役割があり、それぞれの抽象度において最適な機能を果たすことがチームプレーの鉄則です。
6.具体化と抽象化の同時使用は価値体系を創ること
以上、2~5は、具体化・抽象化といった論理展開を別で使うのではなく、具体化と抽象化をセットにして使うことでより大きなメリットを生み出すことができるケースの紹介でした。
この具体化と抽象化の同時使用がなぜうまくいくのかと言うと、それは具体と抽象を定義することは価値体系を創ることだからです。
「価値体系を創る」というと難しいですが、例えば「2.」の試験の例で言えば
●価値体系A
【抽象】試験でよい成績を取る(目的)
【具体】勉強時間を最大化する(手段)
→「徹夜して勉強する」は良い行動
●価値体系B
【抽象】試験でよい成績を取る(目的)
【具体】試験本番のコンディションを最大化する(手段)
→「徹夜して勉強する」は悪い行動
この事例でやっていることは、本質的には「A・B2つの異なる価値体系においてどちらを選択すべきか?」という価値体系の選択を迫るコミュニケーションなのです。
「~という行動をとった方がよい」とだけ言う場合より
~という行動をとった方が良い(=具体)。なぜなら…の実現につながる(=抽象)から
具体と抽象をセットで伝えることは価値体系を創ることと理解し、日々の思考に取り入れて行きましょう。
7.悩んで立ち止まったら抽象度を上げて考えよう
ここからテーマが少し変わりますが、あれこれ考えてもうまくいかず悩んでしまったら抽象度を上げて考えようというお話です。
「抽象度を上げる」というのはすなわち「捨象する」ということ。
捨象
[名](スル) 事物または表象からある要素・側面・性質を抽象するとき、他の要素・側面・性質を度外視すること。
【出典】デジタル大辞泉
「いろはす」と「水」では「水」の方が抽象度が高い表現ですが、それは「水」が
・ワンコインで買える
・クシャクシャに潰せるペットボトルに入っている
といった「いろはす」固有の特徴を切り捨てることで情報量を減らした表現だからです。
・「Aさん」ではなく「男性」と捉える
・「フォルクスワーゲン」ではなく「自動車」と捉える
・「8月1日」ではなく「真夏」と捉える
この様に、具体的な概念を抽象的な概念に置き換えることで、考慮すべき情報が減り、シンプルに思考することが可能になります。
考えているはずなのに、結論が出ない…
8.「学ぶ」とは具体的な経験から抽象的な本質に気づくこと
「学ぶ」ということは抽象化そのもので、非常に多くの情報をもつ具体的な体験から、再現性のある普遍的な法則や理論、すなわち「本質」を見つけることが学びの意味合いです。
例
▼具体的な経験
徹夜で勉強し、一夜づけで試験を乗り越えた日に、友人と打ち上げで飲みに行ったらいつも以上にすぐ酔っ払った
↓
▼学び(再現性のある普遍的な法則や理論=本質)
疲れた状態でアルコールを摂取すると酩酊感が高まる
徹夜で勉強し、試験を受け、友人と打ち上げを行ったという一連の行動は非常に多くの情報から成り立っていますが、そこからの「学び」は非常にシンプルな(=抽象的な)表現で言い表されています。
この例からわかる通り、「学び」の内容は再現性のある普遍的な法則や理論である「本質」です。
そして、「学ぶ力のある人」とは「本質を見つける力のある人」を指します。
この経験から何が言えるか?
「本質」について詳しく学びたい方はこちら
◆「本質」とは何か?│質量問題の解答と本質思考の圧倒的な価値
9.見抜いた本質は具体的な実践に落とし込んで使い倒す
では、本質が見える学ぶ力が高い人ほど何でも世の中うまくいっているかというと決してそうではなく、見つけた本質は実践的に使ってこそ意味があります。
上記のように「疲れた状態でアルコールを摂取すると酩酊感が高まる」と経験から本質的なことを学んだとしても、学びを活かして思考・行動のパターンを具体的に変化させなければ学びの成果を享受できません。
つまり、ここでも抽象化と具体化の同時使用が必要なわけで
日々の経験
↓ 抽象化
本質的な学び
↓ 具体化
思考・行動の変化
見抜いた本質は具体的な実践に落とし込んで使い倒す
本質を実践に落とし込む「本質思考」とは
◆本質をすぐに捉える人の「本質思考」│理由を問い、思考の抽象度を上げよ
10.本質を使って仮説を作り、行動を仕組みのレベルから変える
抽象化・具体化の一連のサイクルを押さえたならば、このサイクルを仮説思考に使うことも可能になります。
「仮説思考」とは文字通り、未知のことや未来のことについての仮説を使った思考方法です。
例
「疲れた状態でアルコールを摂取すると酩酊感が高まる」ならば、次のサークルの合宿でいつも通りにお酒を飲むとまた失敗しかねない(=仮説)
↓
合宿のときは、あまりお酒を飲まないメンバーたちのテーブルに自分もつくことにしよう
この様に身近なことに当てはめると
そんなこと、意識しなくても日頃から無意識でやっている判断じゃないか!
・「収入を増やしたい」と思いながら、日々の仕事は手を抜きがち(それでは社内で評価もされないし、転職でステップアップも見込めないとわかっていながら…)
・「今年こそは痩せたい」と思いながら、ついコンビニのいつもの棚でいつものスイーツを買ってしまう(それでは痩せられないのはわかっているのに…)
「このままではいけない。なぜなら…」と明確に本質的な理由までわかっているのに、それを活かしていないことはたくさんあるのではないでしょうか。
大切なのは、「このままではいけない」という仮説が明確になったときに、更に抽象度を上げて「なぜその様な状態になっているのか?」を考えながら、より抽象的な仕組みのレベルで解決策を導き出すことです。
現実のレベル
↓ 抽象化
仮説のレベル
↓ 抽象化
仕組みのレベル
抽象度を上へ上へと高めていくことで、より本質的な解決策を発想することが可能になります。
おわりに
「抽象度」という概念をテーマに、それを日々の思考に応用するためのアイデアをご紹介しました。
まさに様々な抽象度で10個の内容を並べたので、ピンとくるもの、そうでないものが色々だったかと思いますが、興味があるものはぜひ取り入れていただければと思います。
記事になる前の「思考法や科学の知識」「考え方のアイデア」をツイートしています。ぜひフォローをお願いします。
ウワノタカオ (@Uwapon) | Twitter
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・ウワノキカクのFacebookページ
<総論>
◆【第0講】論理的思考の本質
◆【第1講】「考える」の実践的定義を学ぶ
◆【第2講】論理的思考の本質を理解する
◆【第3講】論理を使って「理由」を深堀りする方法
◆【第4講】論理的思考の完全講義【図解】
<各論>
◆同じ意味で言い換える論理の型「言い換え」とは?│論理的思考と抽象度の濃密な関係
◆構造化の思考「ロジックツリー」実践上のポイント
◆因果関係の思考とは何か
◆因果関係の思考「ブランチ」実践上のポイント
◆論理的思考・合理的判断をインストールし組織の業績・パフォーマンスを高めるには?
<商品販売>
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◆「なぜ論理的思考が必要なのか?」ロジカルシンキング研修資料の冒頭をご紹介
◆「考えさせるロジカルシンキング研修」のやり方と実践のための資料
<まとめ>
◆論理的思考の基礎講座
◆思考法・問題解決【全体解説】
◆本質思考の基礎講座
◆仮説思考の基礎講座